平成23年7月9日〜10日 イノシシ達のロングトレイル 奥物部紀行

第1日目:日和田〜石立山〜中東山〜石立分岐〜白髪避難小屋 (11時間)は ここ

第2日目:白髪避難小屋〜白髪山〜ふるさと林道登山口〜みやびの丘〜古敷谷山〜
     韮生(にろう)越
 〜口西山〜源氏ヶ森〜別府峡もみじ茶屋 (12時間)


平成23年7月10日 白髪避難小屋〜白髪山〜ふるさと林道登山口〜みやびの丘〜古敷谷山〜
(二日目)   韮生(にろう)越
 〜口西山〜源氏ヶ森〜別府峡もみじ茶屋 (12時間)



この地図の作成にあたっては、国土地理院長の承認を得て、同院発行の数値地図25000(地図画像)を使用したものである
カシミールソフトを使用したGPSトラック・ログ図
赤 : 第1日目  日和田〜石立山〜中東山〜高ノ瀬・石立分岐〜白髪避難小屋
青 : 第2日目  白髪避難小屋〜白髪山〜みやみの丘〜古敷谷山〜口西山〜源氏ヶ森〜別府峡


朝起きると良い天気だった。二人で寝たドームシェルターはスペース的には快適だったがちょっと入り口に結露があった。
小屋の外に出て夜明け前の空気を吸う。太陽は東側、剣山方面から昇ってくるのだが、そちらには大きな山が見えず
ちょっと残念な風景だ。

正面の三嶺は次第に朝日を浴びて山頂付近が明るく光っている。手前の笹や樹木が枯れているのも残念な風景である。


その内マーシーさんもゴソゴソ起き出し、お湯を沸かして朝食の準備をする。二人ともお湯の分量を間違えてお粥の様に
なった山食を平らげる。「うまく行くと15時頃には下山出来るかもしれないなあ」とその時は本気で話していた。


昨夜の土間で燻った燃え残りを掃除して06時00分白髪避難小屋から口西山へ向い出陣する。この辺りから眺める
石立山は丁度 由布岳と同じく双耳峰の様に見える。


 
  朝を迎えた白髪避難小屋                   モンベル ドームシェルターII (ツェルト)


         朝の三嶺   笹の葉は無く茎だけになった手前の「笹原」

 
0600時 白髪避難小屋を出発 お世話になりました    鹿防止ネットの向こうに双耳峰に見える石立山


06時18分三嶺分岐の標識を通過、三嶺まで4.5kmとある。ここから鞍部を経由して白髪山へ至るのであるが、
相当前に2度程歩いていても余り記憶になかった。この辺りも鹿の防護ネットが張られ、防護網が樹木に巻かれている。
07時05分白髪山山頂へ到着。


ここから昨日歩いた石立山中東山〜高ノ瀬縦走路が一望出来る。やはり横から眺めると結構な距離である。南側には
今から歩こうとするみやびの丘、源氏ヶ森、口西山とそこから東側へ別府峡までの尾根が見えるが、一見そう長くは
見えない。北側には三嶺を正面にして左に西熊山〜天狗塚と剣山系の山脈が並んでいる。


 
         三嶺・白髪山分岐                       白髪山下山標識


    今から歩く尾根を眺める   遠くから見ると簡単そうに見えたものだった


 左のピークが石立山            手前中央がみやびの丘


白髪山から北側の三嶺を眺める  徳島県側からは中々よく見えない三嶺が一望できる


下山口への標識には「峰越林道・白髪駐車場」とある。 白髪山を南に下っていると、西側斜面の大岩に狩猟の
姿をした見張りが立っている。今日は大掛かりな鹿掃討作戦が行われるのだ。


登山口に近づくと狩猟ハンターが居てちょっと緊張する。猟犬の見習いと思われる小型のビーグル犬が鈴を鳴らし
ながら寄ってくる。猪や鹿と間違われてもいけないので大きな声を出してこの犬と相手をする。高知の登山者が二人
下から登ってきたので「今日鹿狩りがありますよ」と言うと既に知っており白髪山までの登山道は安全だと言う。


07時43分 ふるさと林道登山口に下り付く。

沢山の狩猟用軽トラや県庁の車が置かれた駐車場を抜けて08時00分みやびの丘に着いた。そこには休憩所の
建物があり20分程休む。ここから見る白髪山は形が良いし、剣山系や奥物部の山々がグルリと見渡せる気持ちの
良い場所だ。ゆきねえがお気に入りな訳がここに立つと理解出来る。



 
    上韮生川が大栃まで続く                    猟犬の見習いビーグル  落ち着きがない

 
      白髪山登山口    07時43分                     みやびの丘


                 みやびの丘遊歩道より白髪山

 

「みやびの丘〜古敷谷山〜韮生越」  60分  踏み跡あり ルート明瞭

08時20分南側に広く伸びた道を歩き出す。今から進もうとする古敷谷山の小ピークからターニングポイント
の口西山、そこから更に南西方面へ伸びる牛地山、勘定山、大磯の平を経て大栃に続く尾根が見える。更にその
右手にある御在所山の尖がり頭も懐かしい風景だ。


だが広くて快適な道は3分と続かなかった。この道は右下へと下がって行き、尾根は踏み跡の小道となった。
でも今にして思えばこれとてしっかりした道に違いなかった。


そこからの尾根はブナや天然檜などの大樹が茂り雰囲気は良いものの、急にスズタケが現れちょっと不安を煽ら
れる。08時35分背丈を越える笹薮となりマーシーさんはマスクを装着するが、大薮の斜面を下るとひどい状態
は終了しホッとする。

 
     みやびの丘は良い展望所だ        みやびの丘から南へ少しの間 広い道がある

 
広い道が右手に下りて、尾根道が狭くなる        木々に溢れた尾根

  
     天然ヒノキの大木              千手ブナもある

 
笹薮の小さな峠を越えると前方に口西山から派生する尾根が見えた   ブナが豊富な尾根が続く


08時53分それまで心許なかった笹薮の細道が広く刈り払われている場所に着いた。巨大な倒木を越えると左手に
脇道があり、どうもこの辺りが古敷谷山の三角点の匂いがする。付近を探していると左手に居るマーシーさんから
「三角点がありました〜」と声がする。


09時00分「古敷谷山」(こしきたにやま)三角点をゲットする。ここまでは至極順調である。

そこから先はこの笹が広く刈り払われた道を下っていくと09時20分、大きな石が沢山積まれた広い車道が峠を
横切っている場所に着いた。何じゃこりゃ? 韮生越(にろうごえ)の変わり果てた姿だった。


マーシーさんはこの車道を下りましょか?と言う。トンデモナイ! ここで壮大な計画を車道歩きなんかで頓挫させ
る訳にはいかん!ここからが本番じゃ〜〜  私は自分の体力を知らず、気合だけは十分な困った老人である。

マーシーさんが車道に向って歩き出す前に、私は向かいの尾根に這い上がって行く。

 
藪っぽい尾根ではあるが踏み跡はしっかり存在する     笹が借り払われている場所に着いた

 
    ここが古敷谷山の三角点だ                相変わらず広い道が南へ伸びている

 
正面には口西山から東に延びる尾根                エゴノキの花びらが絨毯の様に道に広がる

 
      あれ?  何や この道路は              広い道路が韮生(にろう)峠を横断していた



いよいよ四国随一を誇る藪尾根に突入〜の巻

この地図の作成にあたっては、国土地理院長の承認を得て、同院発行の数値地図25000(地図画像)を使用したものである
カシミールソフトを使用したGPSトラック・ログ図

 

韮生越〜口西山  2時間30分  想像を絶する藪歩き  獣道あり

平成23年7月10日09時25分、ここから壮絶な藪との戦いが始まった。昨日より今までの経緯から尾根に
は多少なりとも道があると信じていたが甘かった。最初は薄い踏み跡が確かにあったのだが、直ぐに斜めに倒れた
頑丈で密生したスズタケに消え、時々気まぐれに現れる獣道を頼りに藪に潜る。


「最近僕はこんな藪を歩きたくないんです」とヤマイノシシ属ヤブイノシシ科のマーシーから泣きが入る。
「私だって藪など歩きたい訳じゃないわ 計画したルートに藪があるから仕方ないんじゃ!」と二人とも機嫌が悪い。
これも悟る=諦めるまで一時の心の揺れだ。


その内二人とも眼前の敵と戦う事で精一杯となる。背丈以上のスズタケは一本一本が非常に硬く壁となり押しても
すんなりとは向うに倒れない。毛利元就「三本の矢」の逸話が頭をよぎる。密生するスズタケの間に分け入って
前へ進もうとするのだが、今度は足が抜けない。わめきながら足を引っこ抜くと今度はザックが何かに引っ掛かって
進めない。


こんな消耗戦は久しぶりだ。救われるのは笹埃が若干少ない事だが、ちょっと飲料水が心配になってくる。

10時10分少し藪が薄い場所で休憩し地図を出す。振り返ると天狗塚から綱附森が見える。前方左手には口西山
方面から東に伸びる尾根が見える。あそこまで行けば何とかなるだろう・・・とその時は思った。



 
マーシーさんが道路を下りてしまわない前に向かいの尾根に上がる   あんりゃ 最初からどれだけ〜〜〜


        上を向いて歩こう・・・・  でも上を向いていては藪は歩けない

 
笹だけで無く、小木や枝もあり障害物となる           こんな写真を撮るのも辛いのよ

 
   けもの道がある場所はそこに潜る             ずっと喘いでいるが、上り坂では更にアヘアヘ状態なの

   
   西熊山(右)から天狗塚・牛ノ背               天狗塚・牛ノ背(右)から綱附森への稜線

  
    う〜〜ん まだここまでかい                う〜〜ん まだこれだけしか進んでないわい

 
ブナが沢山あるんだけど、笹が美しくないのよね       ところどころに出現するけもの道に救われる

 
10時50分尾根が割れて右手に窪地が出来ている。どうもここは鹿のヌタ場になっている様で中東山で見たと同じ
シダが生えていた。この山域で唯一のスズタケが無い平和な風景を見た貴重な瞬間だった。

尾根歩きは藪が深くてもまずルートを外す心配は少ない。それにしても国土地理院2万5千分の1地図にある韮生越から
口西山手前まで続く破線は一体何だったんだろう?


口西山に近づくにつれ、それまでのアップダウンから登り坂が多くなる。コルに下りると前面に急な斜面が現れ
マーシーさんが「口西山へお先にどうぞ」と勧めてくれる。一歩一歩喘ぎながらスズタケを掴んではそれを両サイドに
分け、その間に頭から突っ込んで身体を引き上げる。


  

 
右手の窪地に湿地帯があり、鹿の食べないシダが茂る      でも尾根は終始こんな状態だ


ピークまで必死で上がるとそこは口西山ではなく、その向うにまだ次のピークが待っていた。先ほどから水が心配で
なるべくそ〜〜と水バッグから吸って口の中や周りを湿しながら大切に飲んでいる。水が切れた時の脱水症状が心配
なのだ。

マーシーさんには悪いが61歳の身なれば熱射病にならない様あまり頑張らない歩きに徹している。藪に潜るマーシー
さんの音が聞こえる範囲で適当に自分のルートを歩く。倒木が縦に倒れているとそこがちょっと藪が薄く嬉しくなるが、
横に倒れているとそれを乗り越えるのに難儀する。倒木の効用はプラスマイナス・ゼロである。


次のピークが目指す口西山と信じて這い上がると、あたりは平たく藪に覆われていて山頂の雰囲気は微塵もない。
何か目印がないかと探しているとマーシーさんが足元に石柱を見つけた。ここには三角点は無い筈だが、GPSで
確認するとこの辺りがほぼ口西山の位置である。


11時50分ワレラ無事「口西山」(標高1574m)ニ到着ス

   
       尾根はブナと笹薮                   コル部になると樹林帯となっている


 
もう一度コルに下りて最後の上り坂へと進む           口西山と決めた石柱  山頂標識は見当たらなかった


口西山(1574m)〜源氏ヶ森(1529.1m) 1時間30分  四国随一の藪 獣道あり、所により不明


口西山から尾根は南側を流れる物部川と北側の上韮生(にろう)川を分けて南西へと伸びて、井地山、勘定山、
大磯の平を経てこの川の合流点である大栃へと落ちていく。

口西山から別府峡へ下りるには東に方向を転換し源氏ヶ森三角点へ向わなければならない。地図をみてもわかる様に
この辺りは平坦地なので笹薮が全ての場所を満遍なく覆い尽くして迷い易い場所なのだ。方位磁石で慎重に東側へ
続く尾根へと向かう。方向転換は上手く行ったが、藪の凄さは今まで以上に威力を増す。

ブナやヒメシャラ、その他の大樹は頭上にあるのだが、何せ剛性の強いスズタケの茎が進行を妨げる。尾根のほぼ
中央部に獣道があるが、スズタケが倒れてその痕跡が途絶え、消える獣道を又探しながら藪と格闘する。笹の間に
倒木や木の枝が紛れ込み障害物と化す。距離的には1時間もかからないと思われた単純な尾根歩きに1時間30分も
要した。水切れが益々心配で口を濡らす程度でそっと吸う。


 
     藪との格闘が続く                      こんな場所でも藪は背丈程ある

 
  いくら写真を撮っても同じ様な景色である             樹木は中々素晴らしい

ここでエントツ山登山記恒例の替え歌登場

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原曲: 小椋佳 美空ひばり  愛燦燦

 題    :藪 散々

 藪 散々と この身に迫り  ♪ 僅かばかりの獣道を 探したりして〜  ♪

  藪は苦しい 苦しいものですね〜 ♪

 それでも 私達は めげずに別府峡目指す  ♪

  口西山って  物凄い場所ですねェ〜   ♪

 

 藪 散々と この身に荒れて ♪  大事な地図や デジカメなどを 無くしたりして〜 ♪

  藪は 恐ろしい 怖いものですね〜  ♪

 それでも イノシシたちは 別府峡目指す  ♪

  源氏ヶ森って ロマンさえ無い場所ですねェ〜  ♪


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マーシーさんの姿は相変わらず藪の中で見えないので時々声をかけながらお互いの存在を確認する。

13時16分 予想した場所で三角点を見つける。源氏ヶ森三角点の周りだけは不思議と笹藪が薄く、恐らく誰かに
よって刈り払われいるのだろう。 


ワレラ無事源氏ヶ森三角点に到着ス

 
さて、もうそろそろ三角点が現れても・・・             これや〜 「源氏ヶ森」三角点

 
いや〜〜 手強かったです  歩けば着くもんですね       ここからは下りになり楽勝のつもりが・・・・・・

四国には源平合戦に敗れた平家の名を冠した山や地名が多い。安徳天皇や落ち武者の悲話がロマンを生むのだろう。
しかし何故こんな藪山に「源氏ヶ森」などという綺麗な名前が付けられたのだろう。「源氏ヶ藪」の方が似合っている。


源氏ヶ藪にて記念撮影をして、さてここからは下りとなるからちょっとはスピードが上がる事を期待した。

 

源氏ヶ森〜別府峡  4時間40分  (前半の藪歩きは約2時間半)

源氏ヶ森まで来たら幾ら藪尾根と言えども後は下り坂で楽勝と思われた。16時過ぎにはもみじ茶屋の車に帰り、
別府峡温泉に浸かってマーシーさんは冷たい生ビールを、私は冷たいジュースをグビ〜〜っと・・・(甘かった。)

ところが、背丈を超えるスズタケの林はここでも衰える事はなかった。

ネットで事前に検索していたのだが、源氏ヶ森に関する記述は唯一「高知県の山と森へ」というの中々渋いHPに
紹介されているのみである。しかし残念ながら詳しい記述やトラック・ログは無く、別府から(登りで)7時間も
藪を苦労して到達したと言う事しかわからない。肝心の下山に要した時間もわからないし、「このホームページの
一部たりとも許可無く転載・複製を禁ず」という私の最も苦手な文言があり、どうも人生の王道を歩かれている
プライドが高い人の様だ。


マーシーさんは元からこんな場所を下る気がなく、韮生越からの下山地図しか印刷していない。私のザックに垂ら
していた地図入れは既に藪に食われ、マーシーさんに予備として渡しておいた地図が頼りとなる。


 
左手にはほんのたまにではあるが時折見通しがきく場所も   倒木から藪尾根を見る  も〜藪は嫌〜〜


13時30分細尾根の急な下りになり、岩場を迂回する為一旦左にトラバースして、右手の尾根に復帰する。尾根に
復帰してカメラが無い事に気がつく。デジカメには落下防止用の紐を首からかけていたのだが、紐にカチッと留める
繋ぎ目があり藪か崖を滑り落ちる時に外れたみたいだ。 藪歩きにはヘマが多い。


マーシーさんに待ってもらい、ザックを置き下りてきた崖をカメラを探しながら又這い上がる。水が無い時に限って
こう言う試練が待ち受けているのだ。崖の上で歩いたと思われる場所を辿りながら探しているとマーシーさんが下から
「カメラありましたよ〜」と天の声


どうも崖を下りるのが面倒なので自ら斜面を滑り落ちた場所で紐が外れた様である。カメラはもう1台予備を持って
きているが、写真のデータはこれに代える事は出来ない。


ホッとして又慎重に水をすすりながら歩き出す。この辺りは細尾根で左手に谷が切れ落ちていた。「ここなら藪はない
ので手っ取り早いのだがなあ」と言いながら藪尾根を進む。


 
  え? デジカメあったの  ウレピ〜〜            又 大木を眺めながら気分転換をして藪に潜る

 
左手に落ちていく崖沢  ちょっと藪から逃げたい誘惑に駆られる   でも結局藪尾根をチョイス

しばらく天然檜やブナ尾根を歩くと14時30分岩と倒木広場があり、ここで地図を出し位置を確認する。それまで
南東の方角へ下りてきた尾根は1462ピークを越えるとちょっと複雑な地形となり、東から東北東へと進まなければ
ならないのだ。


赤いヒメシャラの大木の藪を越えると15時10分正面方向に石立山が見え出したが、山頂は雲に覆われて遠くで雷鳴
が轟いている。「ひと雨来ると助かるんだがねえ・・・」と下りのクセにちっとも楽にならず熱っぽい身体を雷雨で冷
やしたい気持ちである。


尾根には相変わらず背丈を超えたスズタケの藪で、右へ左へとそう効果の望めないルート探しをしながらマーシーさん
に続く。


15時45分、ツルアジサイの巻きつく大木を越えると若干藪が薄くなって来た。暫く下って15時50分石積みの
境界杭があり植林地帯との境に着いた。あ〜〜やっと藪が終わったのだ。

 
    コル部になると深い森風景となる     ちょっと休憩しましょうか  位置を確認


     どこを通ろうかなあ   倒木は圧倒的にブナが多い

 
     ヒメシャラの大樹が多く目立つ        おっ 石立山が見えたぞ

         
                    森の主

  
  色即是空 疲れると無我の境地を体験出来る    お〜〜 藪が若干薄くなったぞ・・・我に返る



実に韮生越から6時間30分に渡る四国屈指の藪との戦いだった。

イノシシ 最後の詰めを誤る  の巻


だが、人間ホッと気が緩んだ時が一番危険なのだ。地面に身体を投げ出し植林地帯を前にして地図を出して進む方角を
二人で検討する。ここは南側では無く北側(東北東)に進まなければならない地形である事は事前に頭にインプット
していた。東北東と言いながら、地図も位置も確認した後、磁石で進行方向を東南東に向けてしまったのだ。
これが疲労と脱水症状の成せる業か!



二人は少し右手の植林地帯に突っ込んで行った。冷えた生ビールで頭が一杯のマーシーさんは脱兎(脱猪)の如く急斜面
を下って行く。遅れてはならじと必死で追いかけると左下手に銀色に光る民家の屋根が見えた。中尾集落はこんなに近く
は無いのだが・・・


民家に水を貰いに行くと冷蔵庫から冷やした水をくれたり、缶ビールを売ってくれたりする妄想が頭に浮かぶ。

20分程植林地帯を下りた場所でちょっと不安になりGPSと地図で位置確認をする事に。すると自分達がいる場所は
下山尾根をドンドン南に外れてとんでも無い所に到達している事が判った。


もう下った急坂を登り返す気力も無く、16時20分荒れた植林の急斜面を左手に迂回して外れた尾根に復帰する作戦
を取る。あ〜〜 最後の最後でミスを犯し、水とビールが又遠のいた。

 
  もうこれは藪ではない  快適な尾根なのだ    石積みがあり、まろやかな地形の植林地帯となる

 
   間違った植林の急斜面をドンドン下る       ん? 何かおかしいぞ

下側を歩くマーシーさんが幅が15センチ程の作業道を見つけた。ラッキー この作業道はほぼ斜面に並行に走っており、
これを突き詰めると目的尾根に復帰可能である。途中で作業小屋や民家の様なものに出くわす事もなく、あのマーシー
さんと見た民家の屋根は蜃気楼だったのだろうか。


16時50分一つ手前の尾根筋を越えると、石灰岩がゴロゴロするガレ場となった。足場が悪く石灰岩が足元から崩れて
音を立てて落ちていく。


そこを越えると竹薮があり、17時02分目的の尾根付近に復帰する。このミスによる時間ロスは約30分程と思われる。
ここからは植林地帯の中に大きく掘れ込んだ作業道が下方に向って続いている。

あ〜〜やっと先が見えた。この作業道は852mのピークを右手からトラバースして下っている。古傷の踵が痛くなった
ので、韮生越で藪の為邪魔になりオスプレー・エクソス45に刀の鞘みたいに収めたストックを韮生越以来久しぶりに出
して足を保護する。


17時18分民家がありマーシーさんが猟銃を背負った老人と話をしている。この辺りが中尾集落だろう。話を聞いている
と、どうも猟犬が帰って来ない様である。飲料水が既に切れた身なれば「家でお茶でも」という老人の申し出を是非とも
受けたい気持ちだったが、マーシーさんは既に生ビールを目指して先に進みもう姿が見えない。
丁重にお断りをして左手の
モノレールがある小道へと進む。


 
引き返す気にはなれず、植林の急斜面を横断             石灰岩のザレ場を通過

 
本来の縦走尾根に復帰すると掘れ込んだ作業道がある      民家のおじさん(ハンター)と話をするマーシーさん


右下には車道が見えたのでこれが南の秋田・野地から中尾集落まで続く道路だろう。

途中、道端にタンクがありビニールホースから水が注がれている。ホースの先から流れ出る水を飲もうとするが先が針金で
止められており、こちらに寄って来ず諦める。
草薮の小道を振り返ると段々畑に数軒の民家があったが、人が住んでいるか
どうかは定かではない。ここも限界集落なのだろうか


中尾集落から下山口の米野まではこのモノレールが度々現れるので南側から道路が出来るまではそれが生活物資の運搬手段
だったのだろう。


先ほどから沢の音が聞こえるのだが、この九十九(つづら)折れの道は広くてしっかりしているものの物凄く高度差があり、
いつまで下りてもまだ沢の音が聞こえる。右手に白い砂防ダムが見え、更に下って行くと17時52分やっと別府峡・米野
付近に下り付き橋を対岸の車道へと渡る。橋の下には物部川の支流、槇山川が梅雨の間山に降った雨を集めてドウドウと
音を立てて流れている。


 
        中尾集落を抜ける                  モノレールに沿って踏み跡を下がっていく

 
急なジグザグ道をドンドン下ると右手に砂防ダムがある      更にヨロヨロしながら下っていく

 
OH〜〜 道にたどり着いた〜〜〜  17時52分          水量の多い物部川を渡る

次に渡る車道の橋には温和な表情のツキノワグマが両端に2体置かれ愛嬌のある表情で「お疲れさ〜〜ん」と言ってくれる。
モミジ茶屋Pで車の近くに座り込んでいるマーシーさんを待たせて上の自動販売機へ小銭を握って急ぐが、残念ながら現代の
オアシスには電源が入っていなかった。


失意の元、18時00分駐車場に帰りザックを背中から外すとコンクリートに寝転んだ。「も〜〜ダメや〜 歩きたくない〜
藪はこりごりや」と吠える。


もう一歩たりとも動きたくなかったが、そうも行かず、トイレの水場で汚れた衣服を全て脱ぎ、身体を洗って着替える。
そうしないと別府峡温泉に入るのがはばかれたのだ。


18時28分別府峡温泉で先ずリンゴジュースを飲み風呂に飛び込む。いつもはカラスの行水だが、2日間の記憶を辿り
ながらゆったりと温泉に浸かり至福の時間を過ごす。


食堂へ行くと既にマーシーさんは2杯目の生ビールをやっていた。お目当ての鹿ドッグとコーラを注文し食べてみる。 
意外といける味だった。


    
何やて? 口西山はワテらも行かん場所ぜよ          お〜い マーシーさん 自動販売機まで行ってくるわ〜

 
 あ〜〜 もう一歩も歩きたくない・・・                別府峡温泉  お風呂 おふろ ♪


 
      別府峡温泉 裸の写真はカット            鹿バーガーを食べる  帰りの運転は私なのね



「記憶と記録に残る山歩き」という欲張りな奥物部縦走はここに充実感を持って無事終了した。
マーシーさん お付き合いをありがとう

  

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