南アルプス 白峰三山縦走 (北岳・間ノ岳・農鳥岳)

平成22年9月20日〜22日

第1日目 芦安〜広河原〜大樺谷〜八本歯のコル〜北岳〜北岳山荘テン場

第2日目 北岳山荘テン場〜間ノ岳〜農鳥岳〜大門沢小屋テン場

第3日目 大門沢小屋テン場〜奈良田〜広河原〜芦安


私の中央山デビューは北アルプスの剱岳だった。その時の迫力圧倒され、それ以来四国外と言えば
常に北アルプスにしか目が行かなかった。

9月の連休は後立山連峰の縦走と決めていたのだが、天気予報がいかにも悪い。高い交通費を使って
遠出をした挙句が何の展望もない山歩きになるなどまっひらだ。次兄の研治が京都で学会があるので
それに合わせて一緒に行くことにしていたのだが、悩んだ挙句南アルプスの北岳方面、白峰三山の縦走
に変更する。



白峰(しらね)三山」とは

 北岳(3,190m )、間(あい)ノ岳(3,189m )、農鳥(のうとり)岳(3,051m)を指し、標高日本
第2位の北岳がその盟主とされている。又間ノ岳も第4位の標高でとてもお得な縦走山行と言える。




カシミールソフトを利用したGPSトラックログ図
この地図の作成に当たっては、国土地理院長の承認を得て、同院発行の数値地図50000(地図画像)を使用したものである 


急遽アプローチを調べてみると、長野市の芦安からバスで広河原に出るルートが最もポピュラーである
事が判った。研治がネットで芦安のホテルを押さえたと言うので9月19日坂出を09時出発。途中で
予約したホテルに電話すると「昨夜最終確認の電話が無かったので自動的にキャンセルされました」
との事。

次のサービスエリアで急遽パソコンを繋ぎ検索して少し遠いが「須玉」インターチェンジ付近のニュー
プリンスホテルを再予約。出張の多い研治はネット予約など手馴れたものだ。

須玉インターを下りると山の中の寂しい川沿いにそのホテルであった。見た目にも料金が非常に安い
のもうなづけたが部屋はまともでラッキーだった。ツィンルームを予約したのにダブルベッドになって
いて焦ったハプニングもあったが、交渉の上事なきを得て早めに就寝。 やはりベッドはテントより
快適だわ
い。

             
                     前日はホテルで就寝


第1日: 広河原〜大樺沢二股〜八本歯のコル〜北岳〜北岳山荘テン場(約 9時間)


9月20日 04時に起きて芦安バスターミナルに向う。日曜日の早朝というのに沢山の警備員が誘導に
当たってくれていた。運よくバスターミナルに一番近い駐車場に誘導されて出発準備を整える。


05時10分朝一番のバスは先着順の予約制で我々の乗る1台目は満席であった。約1時間暗い山道を揺ら
れて広河原ターミナルに着く頃には明るくなっていた。

多くの登山者が道の横に設けられたテント休憩所にて朝食や身支度を整えている。

広河原は地名通り広い河原でこの周辺の登山基地となっており、沢山のバスやタクシーが終結している。


少し上流側に歩くと右手にアルペンプラザの建物があり、その先の広い野呂川に架かった緑色の長い吊橋を
渡る。いつもそうだが、山に登る前は独特の緊張感が漂う。特に初めての場所は尚更だ。吊橋を渡って右手
に広河原山荘があり、ここで3日間の縦走登山届を書き込み投函する。


小屋近くのテント場には色とりどりのテントが張られている。
小屋の左手奥に低い取り付き尾根があり、06時45分いよいよ北岳に向って出発。

  
    広河原バス亭から登山口方面                        広河原 アルペンプラザ

 
    野呂川の左岸を吊橋に向かう                      長〜〜い 吊橋を渡る

 
     広河原山荘で登山届を記入                      すぐ横から登山道が始まる

尾根筋を上がり暫く樹林帯を30分ほど歩くと沢筋にでる。この大樺沢沿いにドンドン進み八本歯のコルから
北岳を目指すのである。


このルートには「北岳バットレス」と言われる北岳の東側を支える大岩壁があり、それを眺めながら歩く事が
出来る利点がある。
バットレス(Buttressとは建築用語で壁を支える衝立の様なもので、登山用語では大きく衝立の様な岩壁の
事。北岳バットレスの名付け親は小島烏水らしい。

それがどんなものか楽しみにしながら緩い沢筋の登山道を上へ上へと歩く。

07時34分広い沢に出て橋を渡る。沢山の登山者が行きかっているが、北アルプスよりは遥かに少ない。又
ここは北アルプスと違い樹林帯が多く登山道はシンプルで安全との印象を持った。

08時25分最初の分岐を通過、08時50分広い河原に出て尚も歩くとタカネグンナイフウロが岩尾根をバック
に終盤の花を残して群生していた。この付近にはタカネハナショウブも咲くらしいのだが花季が違う様だ。
沢の土手部にはでかいホタルブクロやカワラナデシコが沢山咲いている。


  
       中々雰囲気の良い森に入る                       沢筋に出る

    
     ミヤマサワアザミ                        ギオン越しに鉄パイプの橋が見える  
  

 
    沢に架かる木製の橋を渡る                       登山道の山水が溢れる  シシウドとキツリフネ

 
     レイジンソウもあるでよ                        オオバショウマ

 
      登山道はよく整備されている                       標識も要所に設置

 
  高さがある場所には鉄製の橋が                    沢沿いで石がゴロゴロする登山道

 
 振り返ると鳳凰三山が見える                         北岳の付け根が見えた


                   タカネグンナイフウロやろね

 
      沢筋で分岐になっている                        涸れ沢の向こうに北岳の岩場

 
       でっかいホタルブクロだ事                  ナナカマドが赤い実をつけている


10時頃になると唯一沢に残った雪渓が前方に見え、ナナカマドが赤い実を付けて現れる。振り返ると白鳳三山
が花崗岩の白い砂をまるで雪の様に被って並んでいて、その左上には雲の上に八ヶ岳が浮かんでいる。


10時44分 「大樺沢二俣」分岐に到着。ここを右俣に進めば小太郎尾根に上がって右手から北岳を目指す
ルートだ。

ここを左側に進めば池山吊尾根の基部、八本歯のコルに上がり、左手から北岳を目指す事になる。右俣コースも
捨てがたいのだが、予定通り左側に進む。


 
   一部雪渓が残っているがあまり綺麗ではない       何かミシガワソウみたいな紫の花がこの沢を通じて咲いていた


      大樺沢に沿って登って来る     向かいは鳳凰三山  左奥に八ヶ岳


 
       標識がある                             沢が詰められて傾斜がこの頃から急になる

  
  お〜〜 これが北岳バッドレスか                           二股分岐

11時頃から今までの緩やかでスケールの大きい沢道が終わり、いよいよ高度差のある山道に入る。向って右手
には小さな尾根の上に並ぶダケカンバの林があり北岳バットレスの岩壁全容は遮られている。ここは秋には見事な
色になる事だろう。


11時10分丸木を組んだ階段があり、そこを登ると支尾根の上側に着き正面にあの北岳バットレスが姿を現した。
 遠くから見る限りは平たい垂直の壁に見えるのだが、近くに寄ると沢山の岩梁が大岩盤を支える様に立っている
のだろう。




それにしてもこのどこまでも続く木製階段のサービスの良さは何だろう。ある程度の体力があれば誰にでも歩ける
南アルプスというコンセプトが実感出来る。


ハイマツ尾根に敷設された最後の木製階段を這い上がると11時50分「八本歯のコル」に着いた。
コルには数人の登山者がキツい登りを終えた安堵感で休憩していた。大樺沢を振り返ると、正面に白鳳三山の
オベリスクがはっきりと見える。


 
     木の階段が現れる                            いい感じの木やなあ

 
    北岳バットレスをバックに                     ダケカンバの急な細尾根を上がる

 


               北岳バットレスの全容が現れた

 

 
                      どこまでも続く木の階段

 
  ハイマツの隙間をぬって行く登山道                 八本歯の頭から池山吊尾根へと続く

 
八本歯のコルから大樺沢と向かいの鳳凰三山                八本歯のコル標識


左手にはこれも又木製階段が整備された細尾根が池山吊尾根へと続く。尾根部の向こう側には明日の第一目標
「間ノ岳」とその更に左奥に農鳥岳と思われる山塊が続いているが、先ほどから霧が湧いてきて山頂部を隠して
いる。


北岳の本峰を見上げると相当高く聳えておりまだまだ時間はかかりそうである。展望は間に合うだろうか心配に
なった。天気予報の好天を期待して来たのだが、どうもアテが外れた様だ。最初の内はやはり木製階段が敷設され
ており山ガールがスカートで苦戦している。でもスカートの下は今流行のレギンズだから大丈夫なのよね


12時44分北岳山荘へのトラバース分岐に到着。もう重いザックでヘロヘロなので左下に見える北岳山荘方面
へ歩きたい気持ちである。


更に進むと13時10分北岳山荘への尾根ルート分岐(池山吊尾根分岐)に到着。近くには空身で山頂を目指す
登山者のザックが置かれてる。荷物を置きたい邪念を捨てて益々霧が湧いて見通しの悪くなったガレ場を北岳に
向う。


 
            八本歯の頭                         池山吊尾根をバックに木製階段を登る



                        北岳はデカイ岩山や〜

 
     向かいのオベリスクをアップにしてみる             気だての良い山カップルやった

 
   お馴染みのタカネツメクサ                      岩だらけの登山道を北岳へと目指す


 
    要所には木の階段が架けられている                   北岳山荘への近道分岐



         コルに立つ北岳山荘と間ノ岳

 
       キンロバイが咲き残っている                   尾根筋の分岐 (池山吊尾根分岐)

この池山吊尾根分岐は北岳の南側に位置する一つのピークとなっており、農鳥岳方面から北岳を見ると二つ
ピークがある様に見える。そこから湾曲した尾根をトラバースするガレ場を抜けて更に最後の高みを目指し
13時40分北岳山頂に着く。これだけ風が強いと多少霧も飛んでくれそうなものなのだが、もうそこは
一面の霧で展望は無い。楽しみにしていた甲斐駒ケ岳や塩見岳は一切見えなかった。これでは一体何の為に
北アルプスを止めて天気予報の良かった南アルプスを選んだのかわからない。



やっと上り詰めた日本第2位の山頂で遅めの昼食を取る。近くに居る神戸から来た人や北アルプが地元なのに
何故か南アルプスに来てしまったと言う登山者と山談義に花が咲く。単独でいる場合は寡黙な登山者であるが、
一旦水を向けるとみんな其々のキャリアと山への思いを語ってくれる。



             ガスが出かかった南アルプスきっての縦走路



       北岳山頂  (南側からアプローチ)  登山口から約7時間かかった

 

 
        ザックが重た〜〜い                      北岳三角点  点名は「白根岳」

 


                    日本標高第二位の北岳山頂

ここで突然ですが「双子」について

今回一緒に南アルプスを歩いている研治と私は一卵性双生児で小さい時は良く間違われた。中学校の時は
お互いのクラス担当教師に「教室が間違っているぞ」と言われたり、同じバレー部だったのでサーブの時に
相手監督から「先ほどサーブした選手が又サーブしている」とクレームが出たりと・・・


まあこんな事はいいとしても、学校の成績や運動能力なども同じDNAだからそう大差がないのだけれど、
そのちょっとの違いさえ比較されて勘弁して欲しいと思ったものだ。

極めつけは研治の結婚式に長崎へ行った時、花婿と間違われて往生した。

まあ幸か不幸か生後60年も経った現在は黙っていると双子と気がつかれない程に環境の変化で顔が違って
きている。


多感な頃には同じ遺伝子を持っている事に嫌悪感を感じたり、無理して違う人格を装ったり、違う個性を模索
したりしたものであるが、流石この歳になればそんな事が馬鹿げてくる。


登山にしても私が先に始めたのだが、いつの間にか研治も同じように山を歩いている。まあ、それでいいじゃ
ないか。 DNAに無理に対抗しても仕方がない・・・・・と言う訳で還暦の双子が今南アルプスの北岳山頂
にいる。


  
北岳山頂にて 還暦の双子  1950年(昭和25年3月15日)生まれ  研治が先に世に出てきたらしい

14時10分霧に包まれて何も見えない日本第2位の山頂(何度も言うが)を後にする。岩のゴロゴロする登山道を
池山尾根分岐まで帰り、霧深い尾根道を今日の宿泊先である「北岳山荘」のテン場に向かう。


右手からトラバースし基本的には尾根筋を山荘まで進むのであるがこれが結構遠い。傾斜の急な岩場が終わると、
今度はハイマツが生い茂った広い尾根となる。霧でもルートを失うという心配はないものの慎重にペンキを追う。


15時40分霧の向うに機械的な音がして山荘の建物が見え、人の声がする。北岳山荘は立替工事中で足場が組まれ
工事関係者が多数出入りしていた。受け付けでテン場の申し込みをすると「明日工事関係で大型ヘリコプターが来る
ので06時30分までにテントは撤収して下さい」と言われた。


尾根に近い上側のテン場はいい場所だと思ったのだが、トイレの臭いが風に乗って来るので山荘の下側のテン場へ
向う。


天気が悪いのでテントは2張しかなく、ハイマツに囲まれた一番いい場所に設営する事が出来た。 今回登山靴は
モンベルのローカットで、高松モンベルの若い店員さんから「日帰りのハイキング用ですから重い荷物を背負った
縦走には使わないで下さい」と親切に言われていた。天邪鬼の私は今回これを履いてきたが、今の所何の問題も
無い。

と言うか、重い登山靴より数段快適にさえ思えた。特にテン場での出入りに脱いだり履いたりが簡単なのでサンダル
が要らないのだ。


 
お花畑みたいな・・・・ でも花期は既に終わっている          北岳山荘へのトラバース路

 
     トウヤク林道が見られた                       イワヒバリのつがいが仲良く戯れていた

 
           南側の肩まで下りる                      霧で視界が悪い

 
    霧の目印になる様に岩に棒が立てられている        北岳山荘の下側にあるテント場所に到着 あ〜しんど

例によって高い山に来ると頭痛がして食欲が無くなる。水を買いに北岳山荘に行き蛇口から給水バッグに補給。
バーナーでお湯を沸かし、それを入れると出来上がる便利なチャーハンを無理やり食べて横になる。明日は天気さえ
良ければ真正面に富士山が見える筈なのだが・・・



  2日目に続く 



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