イノシシ達の挽歌  尾根這い上がりシリーズ 

平成2454日〜5日 宿願「五代ヶ森尾根」完全縦走


 五代ヶ森 (ごよがもり、ごだいがもり)の藪尾根


                  五代の別れ付近から見る五代ヶ森 (左奥)

五代ヶ森尾根 完全縦走経路図

   
   この地図の作成に当たっては、国土地理院長の承認を得て、同院発行の数値地図25000(地図画像)を使用したものである 
   カシミールソフトを使用したGPSトラックログ図

石鎚山系面河尾根の西側に長く延びる「五代ヶ森尾根」(仮称)はその藪の深さから一部の藪マニア垂涎の
聖域であった。おいわさんのHPによると五代ヶ森は元々「五葉ヶ森」と呼ばれていたものが「五代ヶ森」
と変わったらしい。これをヤマケイの本で「ごだいがもり」と紹介されてこの呼び名で一般的に知られる様
になったと記されている。


元祖名「五葉ヶ森」の呼び名が綺麗なのだが、山名がいつの間にか変わってしまう事は良くある事で、そして
一旦「五代」に変わると「ごだい」と呼んだ方が自然というものだ。
まあそんな人間の勝手な呼び名はともかく
五代ヶ森はこの長い尾根の中で威風堂々とした形を誇るピークである。

主稜線上にある「鞍瀬ノ頭」を天辺に北側には三ヶ森(みつがもり)を経由して西条の虎杖(いたずり)まで
延々と尾根が続く。


一方、「鞍瀬ノ頭」から南側には五代ヶ森を経由して面河の河口までこれまた長〜い尾根が続く。両者とも名
にし負う愛媛を代表する藪尾根である。この藪尾根を全行程下って歩こうと計画している最中、去年「久万高原
遊山会」の方達によって藪の刈り払い作業が行われた事を「しまなみ隊」から聞かされる。

そこで計画を尾根の末端部からテント背負って鞍瀬の頭まで這い上がる事に変更する。堂ヶ森近くまでは水場が
無い為水4Lが必要で、色々装備の減量作戦をするが結局12キログラムをオーバーしてしまった。



前日持っていく物を並べてみる。宿泊は槍ヶ岳・北鎌で使ったツエルト(モンベル・ウルトラライト ドームシェルター2)
グランドシートは銀マット2枚、寝袋はイスカのAIR180 夏用、マット モンベルのPAD150、レインウェアはモンベル
バーサライトジャケット、レインダンサーパンツ 、靴はハイカットを使用、 ストック: レキ スピードロック
着替え:シャツ1枚 靴下 1足、水 ウォーターバッグ 2リットル、ペットボトル 500ml x4 = 2リットル  合計4L
食糧:サタケマジックライス 1、 カップ麺 1、 カロリーメイト 4箱、 行動食 ソイジョイ 1、一口羊かん 4個
    コップ、 インスタントコーヒー 4、孫のおやつせんべい

GPS ガーミン ビスタHLx、コンパス  シルバ、地図 2万5千分の1地図 3枚x2セット、カメラ ペンタックス 
(オプティ W60 予備 オプティ WG1)、ヘッドランプ  ブラックダイヤモンド 1、 ペツル 1、オーバーグラス 1、 
サングラス 1、日焼け止めクリーム、リップクリーム、予備電池4本

薬:虫刺され用、消毒用、ポイズンリムーバー、ウェットティッシュ、虫避けネット  手袋、スパッツ、万能器具 レザーマン
など 合計約12.4キログラム


1日目 昼野〜気多山(けたやま)〜面河村無線中継所〜五代ヶ森 約8時間半

(その1)面河の昼野より気多山〜面河村無線中継所まで 約4時間半


この地図の作成に当たっては、国土地理院長の承認を得て、同院発行の数値地図25000(地図画像)を使用したものである 
カシミールソフトを使ったGPSトラック・ログ図  面河・昼野より面河村無線中継所まで

0630分川内の国道494号線へ入った場所で待ち合わせ、堂ヶ森登山口のある梅ヶ市のバス停近くに0700
マーシーさんの車を置く。梅ヶ市登山口はここから集落の中に入ってまだ遠いが何故だか登山口近くの空き地には
チェーンが張られている。恐らく以前住民の方と登山者のマナーなどでトラブルがあったのだろう。


そこから私のラッシュで更に面河方面へと進む。当初、大成への入り口・里成附近から這い上がるつもりが、やは
りここは尾根の最長部から這い上がろうと言う事になる。国道494号線が久万(松山・高知方面)へ曲がる橋を
渡らず県道
12号線面河スカイライン方面へ少し進み、右手に車を置ける場所を見つけて駐車。

0725分支度を終えて切り通しの崖を見ながら上流部へ少し進んだ処にコンクリートの階段があったのでそこを取
り付き口とする。どうせ道のない場所を歩く訳だから取り付き口も実にアバウトに決定される。この辺りは植林地
帯なのでどこでも歩き放題だが、踏み跡を辿りながら最後は左手の尾根部へと向う。


0740分去年の秋以来の12キロザックの重さを肩に腰にと感じながら尾根部に上がる。小木などが密集する場所も
あるが植林地帯は概して歩き易い。先ほどから
2箇所NHKの標識柱があったのだが、0810分古びたNHKの
共同アンテナのポールが4,5本立っている場所に着いた。


更に尾根を進むと0820分笹薮が現れるがそう長くは続かずホッとする。こんな場所から笹薮続きだと先が思いや
られる。何度も言うが我々は決して藪が好きな訳では無い。歩こうとする場所に藪があるので仕方なく歩いている
のだ。人の余り歩かない場所をフィールドにしてしまった宿命ではあるのだが・・・。

0830分植林の急坂が始まる。そこを登り切ると又笹薮や岩などが現れ尾根らしい風景となる。キケマンとスミレ
の群生地を過ぎると
0915分殺風景な植林尾根の伐採木の中に 943.4m の三角点があった。2時間弱で標高差約
450mを這い上がった事になる。この辺りから尾根が右(東)へ振ってくる。


  
   尾根取りつき口付近に車を停める             少し上流部に進むと丁度階段があったのでここから取りつく

  
    急な傾斜を左手にある尾根へと向かう            尾根部に上がった  そんなに藪はない

  
NHKの共同アンテナらしきポールが4本立っていた      おりょっ  さっそく笹薮が・・・ あまり長続きはしなかった
「ゴホン(五本)だったら龍角散」マーシーがそこで言ったダジャレ

  
繁みもあるが概してスペースがあり歩きやすい         植林と自然林の境界を歩く

  
左手に山が並走するがどの辺りか良くわからない        ミヤマキケマンと現地調達ダブルストックのマーシーさん

  
         何とかスミレ                       943.4m三角点  ここまでは急な傾斜だった


0930分ツクバネウツギの花が沢山咲く細尾根を登っていくと山芍薬のお花畑が現れた。「我々はどこを歩いても
お花畑や珍しい花にお目にかかった事が無いなあ」とボヤいた矢先の出来事に嬉しくなる。


地図を見て平らな場所は曲者だ。方角を間違い易いし、笹薮がある可能性が高い。幸い植林地帯の為藪は無いので
ホッとしながらも慎重に尾根部へとコーナーを回りこむ。
0950分伐採木が地面を覆いマーシーさんと障害物競走
となる。


ここを抜けると1010分右手から幅広い道路が横切って来た。地図には破線となっているが未舗装ながら立派な林
道で恐らく大成まで続いているのだろう。道路を横切って右手に続く植林の尾根へと入る。


いきなり急な傾斜となり前方のピークに向って這い上がっていると、右手が伐採地となっており明るく開けている。
伐採木の運搬の為にブル押しをした作業道も見える。


1050分ピークまで這い上がり初めての休憩を取る。地図上ではここに 1,147.6m三角点がある筈だが、潅木や
倒木藪の中をいくら辺りを探しても見つからない。休憩の後藪尾根を外さず進んでいると
1100分三角点を発見する。

  
        ツクバネソウ            こちらはツクバネウツギが花を一杯付けている

  

    ヤマシャクヤクは可憐ではかない               ヒトリシズカはあまりお目にかからない

   
伐採木や枝があたり一面広がって足の踏み場もない       広い林道を横切り、植林の尾根部へ向かう

  
    右手に伐採地が開けている                          何とかスミレ

  
1,147.6mピーク付近から歩いて来た尾根を見る      1,147.6m 三角点は藪の中にあった


三角点を見つけたので藪尾根を少し外して左側斜面を歩く。潅木の中に咲くミツバツツジを眺めながら快適な尾根を
歩いていると前方にピークが見える。植林地帯の急坂を登っていると林業作業員用と思われる三角屋根のトイレ建屋
があった。


1125分ピークに着くと左手から登山道が伸びて来ており、傍の樹に「気多山」(けたやま)の山頂標識が掛けら
れていた。え? こんな山あった? すぐ横にもさぬき山好会の標識もある。


後からネットで調べると「おやまに行こう」や「おいわさん」のレポがヒットした。そして何と平成18年我が「しま
なみ隊」が気多山〜八辻の峰を歩いて私がその編集を地図まで作ってアップしているでは無いか。そしてそこから石鎚
や五代ヶ森までの展望写真があった。やはりしまなみ隊のはるちゃん・楠さん達は凄い。その時はそんな事はすっか
り忘れており通りすがったのであった。面目ない。


  
白がピンクに変わったシロバナエンレイソウとユキザサ     ツツジが出てくると明るくなる

  
        前方にピークが見えた                    作業道が左右から横切る

  
        ありゃ何だ?   トイレだった                気多山(けたやま)山頂標識


    気多山(けたやま)山頂   天気が良ければこの後ろに五代ヶ森が見える

気多山からは多少の笹薮があるものの良く踏まれて概ね快適な登山道となる。1200分前方に無線タワーが見えて
ここが大成神社から道路が続いている面河村・大成無線中継所だった。日差しを浴び乾いて気持ちが良いコンクリ
ート坂に転がって昼食とする。ここまで
4時間半かかってやっと五代ヶ森登山口に着いた訳だ。

朝コンビニで買ったおにぎりを一個食べる。カロリーメイトは沢山持って来たが食べる気にもならない。北アルプス
に持って行った時もそのまま持って帰ってしまった。やはりウィダーみたいな液体食料の方が実用的だ。


  
  ちょっとした笹薮もあるが長くは続かない              自然林の登山道が続く

  
    無線中継所の手前は少し登りになっている         突然目の前に異様なタワーが現れる


(その2) 面河村無線中継所から五代ヶ森まで   (約3時間半)


この地図の作成に当たっては、国土地理院長の承認を得て、同院発行の数値地図25000(地図画像)を使用したものである 
カシミールソフトを使用したGPSトラック・ログ図  面河村無線中継所〜五代ヶ森

1230分このままここで寝たい気持ちを抑えていよいよ五代ヶ森へ向って出発する。

低い笹の中に続く登山道を登っていると10分位で 1,273.3m の三角点があり「八辻ノ峰」標識があった。泉保さん
の地図では(煙草山たばこやま?)ともある。雲が低く立ち込めた天気で、冷たい風が吹いているので立ち止まる
と寒い位だ。お蔭で心配していた水の消費量は少ない。

ここから無数のピークを持つ厳しい尾根が蛇行して五代ヶ森まで続くのだが石鎚山系のブナと笹、それに加えて
ミツバツツジの風景が心を和ませてくれる。
1248分NHKのテレビ共同アンテナを通過。山に登っているのに
不思議と急な下りが多い。この附近は標高
1,200m近辺でアップダウンが続いている。

前方の高みを眺めながら植林と自然林の混在した快適な尾根登山道を歩く。ただ笹が密生した山になると前半に
は沢山楽しませてくれた花が乏しく時々現れるスミレに注目する。


笹の丈が少し高くなり「久万高原遊山会」の方々による笹刈りの跡が目だって来ると1340分急な登りとなった。
私はレキ・スピードロックのダブルストックを持ってきたが、マーシーさんは現地調達・変遷の挙句、黒っぽい
枝に納まった様だ。自称ブラックダイヤモンドのダブルストックと言う。現地調達ストックはいつでもポイ出来る
ので便利には違いない。


傾斜が急なので振り返ると登って来た尾根を眺める事が出来たが植林が多い為かあまりキレの良い尾根には見え
なかった。


1417分急坂を登り切ると左右から笹刈りされた登山道が伸びていた。この分岐の上側に1,436.3m 三角点があり、
更にその奥に図根(ずこん)点も埋設されてある。


  
ここが「久万高原遊山会」による笹刈り登山口となる      最初はのどかな尾根風景だ

  
 直ぐに三角点があり「八辻の峰」山頂標識で山名を知る   ブナなどもあり俄然雰囲気が良くなる


        時々日差しがあるものの、雲が低く垂れ込めて風は冷たい

  
      前方に 1,436.3mピークが現れた              左手に林道が暫く並走する

  
   叡山菫(エイザンスミレ)でしょうか                     しばしの寛ぎ

  
レキと現地調達ブラックダイヤモンドダブルストック          見事な笹刈りロード

  
      歩いてきた道を振り返る                 この辺りは自然林で明るい  でもキツイ登り

  
左手に明確な笹刈り登山道が来ている  右手も道がある様な       1,436.3m 三角点

  
      アケボノツツジが初めて現れる               すぐ上側に大きな図根点が埋設されている

1425分右手にアケボノツツジの花を見る。この独特な淡いピンクが山に現れると何故か嬉しくなる。前方には三角
形のピークが左手前と右手奥に二つ並んでいる。


アケボノピークより一旦下がり1453分手前のピークに向って上がる。ブナ林と笹の風景が美しいしこの中には芸術
的な千手ブナもある。でもブナは枝を大きく張り出すだけに古くなると風に弱く倒木も又ブナが多い。
1510分頃に
なるとモミや五葉松も見られる様になる。暫くすると五代ヶ森のピークに向けて最後の急な登りとなる。

両側に密生した笹の長い茎を見るにつけ、「久万高原遊山会」の作業に感謝する。
1540分山頂が近づくと白骨樹が
多くなり大きな五葉松が迎えてくれた。傾斜が緩くなると
1600分「五代ヶ森・三角点」に到着。


         先日の篠山に次ぐ今季2番目のアケボノツツジ

  
この辺りには5〜6本以上のアケボノが自生している   コルになると穏やかな登山道に

  

     美しい風景         五代ヶ森は左のピークかな    

  
    一つ手前のピーク付近に近づく         高度が増すとブナが増えてくる


   お〜〜   ここにも千手ブナがあるわい

  
    モミの樹も現れてくる                 目指す五代ヶ森はあと少し

  
       最後はキツい登りだわ          少し傾斜がなだらかになる

  
    山頂近くになると白骨樹が現れる        立派な五葉松  これが旧山名の由来か

  
       笹刈りの道が続く             殺風景な五代ヶ森三角点に到着〜


まだ日没までは時間がたっぷり残っているが、二人共先へ進む体力と気力の残量は既に無かった。先ほどから猛烈な
強風が吹き荒れてこれ以上進んでも益々条件が悪くなる。それでもこんな場所でテント泊する人などおらず設営条件は
極めて悪い。百円ショップで買った短い杭は全く効かないし周りは笹藪で石さえも無い。


平らな場所は笹刈りの為鋭い切株状態となっており、グランドシートの銀マットを突き破りテントに穴を空けるだろう。
テントが張れる場所を何とか探して寒さに震えながら二人で分担し設営し、中に潜り込む。紐が足りずマーシーさんが
持って来たスリングを利用して笹の束とテントを結ぶ。

私はコンビニで買った柚子チューハイ、マーシーさんは缶ビールに麦焼酎に梅酒と重たいザックに忍ばせて来たアルコ
ールを出して乾杯! 
私は酔っ払って横になり一向に減らない缶チューハイと格闘する。おつまみを頬張り水代わりに
流し込む。マーシーさんはあぐらをかいて何かグダグダ言いながら酒を飲む。


もうこのまま寝たい気持ちだがマーシーさんが「夕食にしましょう」と言うのでお湯を沸かしてもらい春雨スープを
作る。我々のテント生活は陽気になったマーシーさんがテンションが高くなり、横で疲れた私は適当に生返事で答え、
そのうちマーシーさんも諦めて寝てしまうというパターンだ。もし私が酒飲みだったらマーシーさんとは昼も夜も良い
パートナーだったんだけど・・・すまん


  
    お疲れさ〜ん  レモンチューハイとビール         その後マーシーさんのピッチが進む

5月の四国の山はそんなに寒くは無いと予想して防寒対策はしていない。私はそれでも夏用シュラフを持って来たが、
マーシーさんはシュラフカバーのみだ。持って来た物を全て着込み各々の寝床に潜り込む。


眠れぬまま今までのテント泊の寒い思い出が巡ってくる。    剱沢テン場、石鎚、野根山街道・岩佐の関所、  槍ヶ岳北鎌
その殆どが寒くて震えた経験で懐かしい思い出として残っている。

台風並みの強風が一晩中吹き荒れてテントを揺るがし、その度に結露が天井からポタポタと顔に落ちてくる。でも月は
テントを通してもLEDランタンの様に輝いている。ジッパーを開けて外を覗くと月明かりで辺りが日食の様に良く
見える。「寒くて寝られんわ」と言っていたマーシーさんのイビキを聞きながらテントの揺れに相変わらず寝れない
夜だった。


                  
                    テントから覗いた五代ヶ森 夜中の月


第二日目:五代ヶ森〜鞍瀬ノ頭〜堂ヶ森、梅ヶ市下山口へと続く    続きは ここ



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