2005年10月19日
ヤブ漕ぎ三銃士 大登岐山ー黒岩山ー野地峰 縦走(これ以上の藪尾根はない)
平成17年10月9日 ヤブ漕ぎ三銃士 大登岐山―黒岩山―野地峰縦走 


                              (地図作成 国土地理院数値地図50000 承認番号 平15総使第634号)
マーシー・紫雲・エントツ山による大登岐山ー黒岩山ー野地峰縦走
(GPSのトラックデータをカシミールソフトを使い地図上に表記)

やぶ漕ぎユニット (MES) 臨時結成 !

ヤブを攻める楽しみは 帰って女房に責められる苦しみと正比例する   (マーシー)
ヤブを歩きたいヤツなどいない ただ歩きたいルートにそれがあるだけさ  (紫雲)
人生の大ヤブに比べたら お山のヤブなど どうってことないわさ     (エントツ山)

この登山記を今も元気で生きている偉大な県境法師マーシーと紫雲に捧げる


序章プロローグ

中島みゆきの「地上の星」 替え歌 「ヤブの中の三銃士」♪

ヤブを駆けるマーシー ♪  スズタケを分ける紫雲〜♪ 
        エントツ山はコケた♪   ここは嶺北の秘境〜 ♪
ヤブの尾根で迷い ♪    スズタケの海に溺れ♪
        霧が行く手を拒み♪    見定めも効かず〜♪
どこをどう歩いたのか♪   誰も覚えていない
        探すものはただ    足元の県境杭
ハヤブサよ 高い空から   教えてよ 本当の道を
ホシガラスよ 俺たちは今 何処にいるのだろう  ♪

**********

愛媛県四国中央市、大小の煙突が立ち並びパルプを蒸す匂いが辺りに立ち込めた紙の町。今から数年前ここに一人の県境
歩きに取り憑かれたアホな肉体派登山家が誕生した。男の名は「マーシー」。マトモな人生を送っている人なら念頭だにおか
ない嶺北の秘境「大登岐山―黒岩山―野地峰の大藪県境ルート」の一人歩きに手を焼き、ある日板長を務めるクロポイ掲
示板でダメ元公開同行者を募集したのだった。

よせばいいのにこれに同行支援を申し出た者がいた。意外にも四国の山サイト屈指のインテリ・クールガイ紫雲と呼ばれた男
だった。彼もまたこの禁断の地の縦走に魅せられてひそかなる思いを寄せていた。

そこにまた、「私も混ぜて〜」ってこの地域に何の執着もないくせに、ただ食いつきたがり屋の男が現れた。ダボハゼと異名を
とるエントツ山だった。ハッタリと知ったかぶりで山サイトを渡り歩くこの男にはまだこの県境ヤブ漕ぎの本当の恐ろしさを知る
由もなかった

かくて ここに「マーシー(M)・エントツ山(E)・紫雲(S)」のヤブ漕ぎ三銃士ユニット MESが即席に誕生したのだった。
決してお勧め出来ない過酷な縦走 これは県境法師・マーシーの誘いに乗った哀れなサラリーマン二人の壮絶な藪との戦い
の記録だ

第一章 桑ノ川登山口―県境尾根―大登岐山 約2時間

    
     桑ノ川 登山口 −県境尾根 − 大登岐山

10月9日 0500時 大豊インターで待ち合わせて、3台で早明浦ダムへ向かう。紫雲さんの若者車インスパイアーを必死で追い
かけ見失い途方にくれる二人。今日のヤブ歩きを暗示するかのようで朝から即席ユニット隊の先が思いやられる。早明浦ダムで
俊足インスパイアに乗ると人格が変わる紫雲さんを引きずり出して鈍足車に閉じ込め、デポ地の野地峰登山口・白滝へ向かう。

ここはトイレ・水道が完備されているのでエントツ山のデポ者に全員の着替えを入れる。マーシーの鈍足4駆で早明浦ダム付近まで
戻り汗見川沿い(県道坂瀬・吉野線)を進み支流の桑ノ川に沿った林道へ向かう。狭い後部座席で揺られて30年ぶりの車酔いに
ダウンする。紫雲さんが記憶を頼りに入り組んだ林道をうまくナビゲートして赤滝で写真撮影の為停車。舗装がなくなりゆらり揺られ
てもう限界だった私は外に出て冷たい空気を一杯吸い込み生き返る。

   
     登山口手前にある 赤滝

 
旧林道分岐 登山口 マーシー・紫雲さん 切り立った旧林道をリードする紫雲さん

林道の部屋ピンカーブに廃道になった旧林道があり、その分岐に車を停める。ここから谷を詰めて兵庫山と大登岐山間の尾根に
上がるのだ。ススキや草に覆われ荒れた林道を進み、沢付近から山の斜面に取り付く。


 
取り付きの沢                 沢を渡り荒れた石積みの平坦な道へ
 
紫雲さんの適切な指示で石積みの倒木だらけの荒れた平坦な道を歩き谷を詰めて、植林を少し上がり登山口から約1時間ほど
で稜線に上がった。ここで少し休憩を取る。あたりは深い霧が立ち込め景色が見えない。鹿の警戒音が木霊し相当近いところで
ガサゴソ野生の音がする。GPSで位置確認すると兵庫山―大登岐山間の少し兵庫山よりの稜線部であった。

 
荒れた道を沢奥まで詰める         植林地帯を尾根に向かう(テープあり)

 
   尾根に上がる              大登岐山への尾根道

そこから大登岐山に向かってマーシーが先頭になって進む。ブナや低いスズタケ、シャクナゲが現れる典型的な四国の尾根風景
が霧の中に浮かびあがる。大登岐山に向かってほぼ登り坂。一行は雨でぬかるんだ登り坂に喘ぎながら小一時間程歩くと眼前
の霧の中に切り立った岩峰が現れた。

 
シャクナゲが多い岩場            鹿のヌタ場もある

 
快適な尾根道                 霧の中 深山の雰囲気を楽しむ

マーシーさんは当然の様に北西に向かって切れ落ちた絶壁に取り付いていく。以前ここから登ったらしい。あとから渋々着いて
岩の左手にシャクナゲや潅木の取り付きを探しながら攀じ登る。リンドウが沢山咲いていてとても綺麗だが、展望は残念ながら
霧のため全くない。

 
大登岐山 岩峰が眼前に現れる            ここを登るの?

 
いきなり岩盤に取り付くマーシー      山頂直下

去年しまなみ隊のはるちゃんが得意そうに立っていた大岩についた。第一関門をクリアできた喜びを三人で分かち合う。マーシーさん
とは息のあったシェ~を大岩の上でポーズして紫雲さんに撮ってもらう。紫雲さんにもシェーをおねだりしたが、恥という人間にとって一番大
事な誇りを捨てきれないインテリには無理だった。

    
     大登岐山 大岩で 紫雲さん  マーシー

    
     大登岐山の大岩で エントツ山  マーシー

    
       大登岐山の紅葉


第2章 大登岐山―下川峠―1369m無名峰    約2時間


大登岐山 − 下川峠  −  1369m 無名峰

さて、今から何処へ向かうんだろう?付近を見渡しても一見下りれそうななだらかな尾根など見当たらない。マーシーさんは既に当たり
をつけていて、先ほど登って来た絶壁まで戻り「ここから下ります」という。え〜〜? 紫雲さんと同時に声を上げた。

 
    ルートをチェック            奈落のような崖を下りていく
   
ここではマーシーさんがひよどりごえの義経で二人は驚く従者達だった。唖然とする二人の従者を尻目に「余に続け〜」とばかりに
崖をいきなり下り出した。潅木やスズタケが茂っているので滑落の心配はないようだが、転がるように断崖を稜線を外さずにマーシー
さんの後を追う。

 
スズタケを折って木にマークするマーシー  ゲリラがこちらを狙う

ここを一気に下るとそこから下川峠までは小さな起伏が続いており、ヤブは濃いが、所々に現れる県境杭を確認しながら歩く。だがスズ
タケが足元で縦横無尽に倒れて絡まり、足が抜けない。普段足をそんなに上げる生活をしていないのでこの慣れないハードル競争で
太ももの付け根がヤバくなった。

 
  比較的ヤブが薄いところではホッと一息  霧は相変わらず濃い

でもマーシーさんが落伍者の事などおかまいなしにどんどんヤブを掻き分けブルドーザーの様に進むので泣く泣く着いていくしかない。
事実 スズタケを潜ると枝が鼻に入り、メガネの横から大事なおめめを突いてくる。鼻血を出しながら目を押さえ、顔を上げると足元が
見えずにスズタケの罠に足をとられて転倒する。

こんなに必死で平泳ぎをしたのは、大学時代 高知の夜須海水浴場で黒潮に流されて必死で岸を目指した時以来だ。

     
       カメラを構える紫雲さんとマーシー

そうこうしているうちに下り傾斜の底が来てヤブが薄くなり峠の雰囲気らしき所に着いた。確かに南北に道があったような気配
がする。どうもここが下川峠らしい。マーシーは以前もっと進んだところまで行って北に撤退したと言う。そこからなだらかな登り
をつめると比較的平坦な1,369m無名峰らしき場所に入域した。

この場所は地図で見て一番のポイントとなる場所だと考えていた。
大登岐山から南西方向へほぼ一直線に進んできた県境尾根が、この場所で南側を緩やかに湾曲して、真西にある黒岩山に向
かって今度は北に弓なりになっている。こんな切れの無いターニングポイントが一番厄介なのだ。ここもマーシーが先導してうまく
回り込んだ。そのあと、マちょっと油断して私が先頭に出てしまい、数少ない赤テープの向こうにある尾根らしきルートに下って行った。
紫雲さんが後から続く。

 
油断すると仲間を見失う         道がなくなった ここはどこ?わたしは誰?

凄いスズタケを降りきった所で行き詰まり、右手をみると別な尾根が見えた。最後尾にいるはずのマーシーを呼ぶが返事が無い。
のときルートがおかしい?と思ったマーシーさんは木に登っていたのだ。
「ア〜アア〜〜そこから少し右に出てください」とターザンが木の上から叫ぶ。そこは3mにも成長した巨大スズタケの真っ只中で
身動きが取れない。崖の岩近くのスズタケが薄い場所を選んで紫雲さんとヘロヘロになりながら軌道修正。地獄の15分がとても
長く感じた。やっと尾根筋に脱出しホッとして休憩。


第三章 1,369m無名峰 − 黒岩山   約3時間


1,369m無名峰 − 黒岩山

尾根道に帰ってホッとし束の間の休憩。見ると二人はチュウチュウなにやらチューブを吸っている。何それ? 宇宙飛行士でもあるまい
し・・・。今までどうして二人の給水場面がなかったのかこれを見てようやく理解できた。このチュウチュウ給水で余裕の紫雲さんはたび
たび私のペットボトルをザックから引き抜いてくれて渡してくれたり、ヤブで落としたそれを拾ってくれたりしていたのだ。でもやはり病院
のICUベッドでチューブにつながれるまではハイドレーションは止めとこう。

 
尾根に復帰 スミマセン 紫雲さん     ハイドレーション中のランボー

しばらくは潅木と少し背丈の低い笹、鹿の集会所など雰囲気がよい平坦な空間を楽しみながら歩いたが、更に猛烈な道がない藪が
我々の前に立ちはだかった。この間の県境尾根が一番ハードだった事はその所要時間からもうかがわれる。もう何も考えない。
ひたすら眼前のしぶとい敵と戦うだけだ。

 
ヤブの薄い所でも油断は出来ない     又 ヤブの中を行進

ヤブハイ状態の恍惚の悟りに酔っていると、岩場に出て少し視界が開ける。展望は相変わらず濃い霧の為望めなかったが、涼しい
風を受けて気持ちがいい。14時を回ったので昼食を取る。 座ったのは大登岐山のテーブル岩以来だった。

 
尾根を振り返る                 岩に山の字

疲れると食欲もない。例の紙パックおにぎりを惰性で食べる。紫雲さんがミカンをくれたのが遠足を思い出して新鮮だった。私は
食欲旺盛だがグルメとは程遠い。水分としては効率の悪いミカンなどザックに入れたためしがない。以前吹雪の笹ヶ峰で滑りまくり、
登山ロボットタッキーがくれたバナナとゆで卵がザックの中で複合汚染した苦い経験がある。それ以来ザックの食料はおむすび、
パン、ミネラルウォーターと決めている。

    
    昼食を取った場所には沢山のリンドウが咲いており心が和む

さて軽い食事休憩のあと、大岩から下る場所がはっきりしない。マーシーさんが今度は岩の上でターザンに変身し「ア〜アア〜〜 そこ
から右へ」と指示を飛ばす。いわれるままにヤブを掻き分けると尾根道らしき踏み跡に復帰した。又しこたまヤブハイ状態を楽しむと
黒岩山
の稜線に入り緩やかな上りとなり、大きな木がまわりに多くなった。

      
                 黒岩山のブナ

      
       岩黒山に近づくと巨大なブナも現れる

      
           岩黒山斜面の千手観音ブナ

必死で最後の坂を上がると紫雲さんが冷静な顔で「これが有名なブナです ボクはこれを見るために今日皆さんのお供をしてきま
した」と言う。見ると千手観音見たいなブナらしくないブナだった。へ〜〜紫雲さんはこんな八方破れの自由気ままなブナを見る為
にあんな坂、こんなヤブを掻き分けてやってきたのか〜 やっぱりキザやなあ・・・

今までの殺風景なヤブ尾根を歩いてきた3人にとってこの黒岩山の風景はまるでオアシスの様だった。三角点にいきましょうか?と
いう紫雲さんに、ここが黒岩山の頂ならそれで満足ですと答えた。(大登岐山でもそうだった)

     
            黒岩山山頂の大木


第4章 黒岩山―野地峰―白滝下山口  約2時間


黒岩山 − 野地峰

黒岩山はマーシーも紫雲さんも来たことがあるのだが、ここでの方向転換も又何の手がかりもない。周りがなだらかでどっちにも
いけそうな場所なのだ。山頂の傍らにある石柱あたりの北西側を先ほどからマーシーさんが犬の様に手がかりを臭いで探している。
「ここです」と声を出すともうその方向へ下って見えなくなった。

 
黒岩山の石柱 ここから北西に下りる   黒岩山を下りる

野地峰―黒岩山については同行の紫雲さんや山登さんの登山記を読んでいるので、取り付きさえわかれば安心だ。確かに今まで
のルートと違い足元には20センチくらいの隙間がある。と言ってもスズタケの勢いは半端ではなく潜ったり、浮いたり溺れたりしながら
マーシーさんを追う。

 
痩せ尾根を進む               猛烈なスズタケ でも足場がある

このコースになると切れ落ちた南側から下山口付近に点在する白滝の里の施設が見えるので不安を払拭してくれる。スズタケが
薄くなる潅木地帯で歩いてきた尾根を振り返る。相変わらず霧で遠望は利かないが、山塊が西に傾いた薄い日差しで薄茶色に輝
いている。

     
      相変わらず山はガスが濃いが下界は晴れてきた

 
西日が少し差すようになってきた      ヤブの薄いところで位置チェック

 
 でもこんなスズタケも現れる       白く光る水耕栽培の施設 下山口は近い

   
    野地峰のアンテナ広場に到着

猛烈なスズタケの揺れを追って更に進むと二つの電波塔が現れた。ここはさすがスズタケが刈り払われホッとする。そこを素通りして
スズタケの最後の抵抗に会い野地峰の首なし地蔵に初めて対面する。

    
     紫雲さん、マーシーのお陰で縦走を無事達成! 感謝

3人のヤブ漕ぎ県境歩き終焉の地で記念写真を撮る。もう熾烈なヤブとの戦いで、出発時点ではランボーの様に勇壮だったマーシー
さんもバカボンのパパになっており、蘇える金狼松田優作のようにカッコよかった紫雲さんも落ち目の岡八郎のようになっていた。
しかし、疲れている筈のバカボンのパパも岡八郎も夕日に照らされた野地峰の伐採斜面を早足で下りていく。リンドウやシロヨメナ
の写真を撮っていると二人は見えなくなった

 
三角点を確認する紫雲さん         伐採地を下りていく

 
やっと向かいの山が少し見えてきた   白滝の里  デポ地に帰り着く
   
デポした車に17時過ぎに帰還。立派な白滝の里にはトイレも水道もあり、野生動物の臭いがする体を拭いて着替え、少しさっぱり
する。ここで紫雲さんがバーナーでお湯を沸かしてコーヒーを振舞ってくれた。それから早明浦ダム経由、紫雲さんの誘導でマーシー
さんの車を回収し里に下りてきたのは夜8時を過ぎていた。

今回の県境尾根歩きはマーシーさんの山でのリードと紫雲さんの林道へのナビがなければ達成出来なかった。二人の勇者に無理
やり混ぜて貰った喜びを噛み締めながら帰途につく。

決して他人にはお勧めできない県境尾根歩き、ヤブ漕ぎ三銃士の固い友情の為にアップしました。

紫雲さんのレポートはここ

個人的には今回の山歩きは「山登の部屋」きままな山歩き 野地峰ー黒岩山、大登岐山を読んでテンションをあげさせて頂きました



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