LSD(Long Slow Distance で行く北アルプス・涸沢カールを囲む山々周回の旅

1日目:上高地〜パノラマコース〜涸沢   (テント泊)

2日目:涸沢〜北穂高岳~涸沢岳〜穂高山荘 (テント泊)

3日目:穂高山荘〜奥穂高岳〜ジャンダルム〜奥穂高岳〜前穂高岳〜紀美子平(テント泊)

4日目:紀美子平〜岳沢コース〜岳沢ヒュッテ〜明神〜上高地


 北アルプス・涸沢カールを囲む山々周回の旅    (その2)


この地図の作成に当たっては、国土地理院長の承認を得て、同院発行の数値地図25000(地図画像)を使用したものである 
カシミールソフトを使ったGPSトラックログ図:2日目:涸沢テント場 〜 北穂高岳 〜 穂高山荘



0月9日(日)涸沢〜北穂高岳〜涸沢岳〜穂高山荘テン場 (約8時間半)

 

これだけテント数が多いと色んなタイプの人がいる。朝03時過ぎから起き出して鍋の音やバーナーの音をさせて
いる。この時間にまるで昼の様にフツーに騒ぐ女性もいる。こんな喧騒の中でもも泰然自若、大きなイビキも聞こ
えてくる。


05時50分何度目かの眼を覚まして空気孔から外を覗くと良い天気である。テントには霜が厚く下りて夜が相当
冷え込んだ様だ。


今日の予定は北穂高岳から穂高山荘までと少々短めの設定なので、登山者からの落石を避けて遅めに出発と決めて
いた。

朝ごはんは外の平たい大岩の上でお湯を沸かす。昨晩と同じくミニカップ麺とお茶付けである。普段家ではとても
食べる気がしない質素な食事も山ではご馳走だ。近くの登山者と簡単な会話を交わしながら寛ぐ。さっきからヒュ
ッテへの踏み石に長蛇の列が出来ている。そのトイレ待ちの列に1時間並ぶ。これが涸沢紅葉シーズンに訪れる
自然愛好家の現実である。急を要する人は大変だろうなあと思いながら涸沢の写真を撮り続ける。

ナナカマドの紅い葉は既に色あせていた。それでも前穂高岳、奥穂高岳、涸沢岳、北穂高岳の稜線から砂の灰色と
草もみじの黄葉、白い新雪と残雪が涸沢に向ってなだらかに滑り落ちている風景はやはり見応えがある。

軽量化の為にサンダルの代わりに自宅のトイレ奥に眠っていたスリッパを持って来た。これは涸沢の様に岩場を歩
かなければならない場所には非常に不向きで、岩角でつま先や踵を打っては呻きながらテントに帰る。


テントは畳まずそのままにして陽に干していたので良い具合に乾いていた。残っている霜を払って片付けにかかり、
09時頃やっと涸沢を出発、北穂高岳の「雲上の喫茶店」へと向う。


 
   換気口から外をのぞく  いい天気だ            テントには霜が降りている

 
もう出発している登山者も沢山いる                      ゆっくりとお湯を沸かす

 
  ナナカマドの実だけが鮮やかな色を保っていた             仮の宿を引き払う


    ご自慢の紅葉には程遠い色合いであるが涸沢カールは美しい場所だった


涸沢ヒュッテから涸沢小屋へ続く石畳を北穂高岳に向って進む。涸沢小屋の背後は崖となっておりその上側が台地
のような地形となってハイマツなどの緑を蓄えている。小屋右手のガレ沢に沿ってこの台地まで登山道が付けられ
ている。多くの登山者は既にテン場を出発しているが、それでも尚沢山のテントが残っている。

中にはここをベースにサブザックで奥穂北穂を縦走する人も沢山いるらしい。

所々鉄棒と板で崩れる沢を補強した登山道が上に伸びている。登山者のラッシュは過ぎてはいるが次から次へと軽装
の登山者が下から来るので軽口を叩きながら道を譲る。
歳の功なのか登山者とため口で笑いを取るのに抵抗はない。

眺めが良い岩に腰掛けてじっくりと眼下の涸沢カールを眺める。前穂高北尾根に沿って雪渓がかなり多めに残っており、
涸沢ヒュッテは氷河堆積(モレーン)と思われる少し小高く良い場所に位置し、通路の石畳が三角形に伸びている
のがよく見える。色とりどりのテントもまだ相当数が残されているようだ。


ハイマツが増えてきて上部を眺めるとルートは次第に左手に振り、南嶺方面へと誘(いざな)っている。登山道が
大きめのガレ場になり、そこを過ぎると11時登山道が左に振れて前方に鎖場が見えた。鎖場の上部は更に鉄階段
がつけられていた。

その岩場を乗越すと更にハイマツと岩の登山道がジグザグになって続く。

 
  正面の北穂高岳への登山口・北沢へ向かう         涸沢小屋と涸沢カール

 
   眼下に涸沢テンバを眺める            ガレ場が登山道だ

 
      随分テン場が遠のいた           新雪をまとった奥穂高岳

 
  登山道は大きめの岩がごろごろしている      北穂高岳はまだまだ高い場所にある

 
    ルートは左に振って南稜へと近づく      スラブに敷設された鎖      

 
      鎖場の上には鉄梯子          ハイマツの急な登りが続く

昨日あれだけ時間をかけて登って来た屏風のコルもこの頃には随分目線の下だ。上からヘルメットを被った集団が
意気揚々と下りてくる。恐らく大キレットからの帰りだろう。上に向って行く登山者でヘルメットを持って行く人
も少しいた。そこへ大きな子供を背中に背負った女性が下りてきた。母は強し、転ばない事を願う。


岩に腰掛けて南側の風景を眺める。右手には相変わらずカールの斜面と奥穂高岳、前穂高岳から北尾根と雪渓、左手
には手前に北穂高東尾根の「ゴジラの背中」その向うに横尾尾根、更には東鎌尾根と常念山脈、燕岳が見える。遠く
四国からやって来た訳だから素晴らしい眺めをじっくりと眺めようじゃないか。


12時30分先日降った雪が残る斜面の前方に形のあまり良くない岩山が近づき、この辺りにテントが2〜3張られ
ている。
こんな場所が北穂高岳のテン場なのか? 平たい場所には番号はふられているので間違いなさそうだ。だと
すればここから北穂高山荘までわざわざ申し込みに行くのだろうか


いよいよ岩だらけの稜線が近づき12時50分 北穂分岐標識に到着した。左手に行くと奥穂高方面、北穂高岳には
ここから右手の岩屑だらけのトラバース道を進む様だ。
程なく見覚えのある平らな北穂高岳山頂に到着。

 
   もう屏風ノコルも屏風ノ頭も眼下になる    子供を背負ったりヘルメットを背負った女性がいる


              涸沢カールの全貌が見える

 
   天まで上るのか? この登山道       ハイマツがなければ崖やで


       手前は東稜・ゴジラの背    奥は常念山脈が連なる

 
 岩屑が砂の様になだらかな斜面を造る            南峰直下にテン場がる

 
   石積みされた北穂高岳のテン場              奥穂高岳分岐


まずは人混みを奥に進み大キレット展望所で懐かしい風景に再開。
以前、ここでおじょもさん達に偶然会って喜んだものだったが、そんな奇遇はそうそうあるものではなかった。それ
でもあらゆる登山者は大展望の前では実に愛想が良く、写真をお願いしても快く応じてくれる。

13時15分北穂山荘のテラスに下り、かろうじて空いている場所を見つけて滑り込む。カレーを注文するがごはん
類は全て売り切れておりがっくりする。
「他に何がありますか?」 「食べ物はカップラーメンだけです」ここまで
来てカップラーメンを注文する事になろうとは。

時間がかかるのでその間冷えた牛乳を買って飲む。食後のコーヒーを注文するが更に時間がかかり槍ヶ岳の展望を楽
しんだ後、隣の京都から来た若者と山の話をしながらゆっくりと過ごす。コーヒーはとてもおいしかった。


その後再度北穂山頂に帰り写真を撮ってあげたり撮られたりして更に名残惜しい景色を楽しむ。長い時間ザックを下
ろしていると又重い荷物を担ぐのが嫌になるものだ。13時50分、
丁度1時間北穂高山頂で遊んで、いよいよ穂高
山荘への尾根縦走に出発する。

 
      北穂高岳山頂に着いた           喫茶「北穂高」にはカレーは無かった


      北穂高岳からの眺め   懐かしい大キレットと南岳〜槍ヶ岳

 
    ザックは13kgに収めた        カッコつけて背中を伸ばしたが似合わなかった



北穂分岐まで一旦帰り、標識に従い奥穂高岳方面へと進む。前回、北穂を下りて少し行った鎖場でとろくさいおばさん
集団が大渋滞を起こしてげんなりした経験がある。どんな登山者にも北アルプスの稜線を楽しむ権利がある。ただし
、それには普段から岩場を歩く訓練や経験が必要で、さもなければ人出が少ない時期存分に楽しんで欲しいものだ。


四国の山歩きに於いても東赤石、前赤石、石鎚東稜コース、簡単な沢歩きなどの経験をつんでおけばこんな場所でも
問題はない。今日はこの時間から奥穂方面へ行く登山者は少ない筈だから静かな尾根縦走ができそうだ。


岩尾根を一旦乗越し右手のトラバース気味のルートを進む。この頃からガスが湧いて来るが特に尾根歩きには支障は
ない。日当たりの悪い岩場には雪がかなり残っており、最近涸沢の紅葉を台無しにした寒波が到来した証拠を残して
いる。


14時30分に一旦細尾根に出てコルに向けて降下していく。すこし岩場を回りこむと以前大渋滞を起こした鎖場に
到着。先行者の男女ペアがいるのでプレッシャーをかけないように距離をあける。確か先ほど北穂で会った「大キレット
を渡って来た」と言ってた人達だ。


鎖場はちょっと高度差はあるものの、今回も鎖を持つ事もなく何の問題もなくクリア出来る程度の場所だった。

15時00分 デカイ岩の板が立った場所を左手側から抜けると、今度は右側へトラバース気味となる。要所に○×の
ペンキで印があるのでルートに困る事はないが雪が結構残っているので雪とペンキの区別が付かない所もある。

更に30分位でトラバース道から稜線に出ると前方に霧に覆われた涸沢岳への大きな岩壁が現れる。一見人を寄せ付け
ない凄い岩壁が立ちはだかっている様に見えるが、ここも良く見ると踏まれたルートが確認出来る。


 
  今から歩く奥穂高岳への厳しい岩尾根            一旦 テン場近くまで下りて南峰をトラバース

 
   雪が残るトラバース道                           鋭い尾根に出る

 
         岩ピークを振り返る                   奥穂高方面がガスってきた

 
    ここが前回大渋滞となった鎖場                   左から回り込む

 
      ガンガン 下りていく                   雪が相当残っていた

 
   前を行く大キレットを来たカップル                  前穂高岳よ 待ってろよ〜

 
    下りてきた岩尾根を振り返る                      涸沢岳への登り


15時40分 最低コルの錆びた鉄標識があり、左手の前穂高北峰をバックに雪渓を配した涸沢への傾斜を眺める。
なだらかな傾斜なので涸沢まで下りる事が出来そうな気がする。
そこからいよいよ最後の岩壁に向って進む事になる。

16時05分鉄階段あり、その上側にある鎖場を登っていく。先行者がいれば落石が怖い所であるが今日はその心配
はない。
16時40分 霧が薄くなったので振り返ると槍ヶ岳と大キレット、北穂が二つの岩尾根に挟まれて絵画の様に
見える。槍ヶ岳の向こう側にある谷間には茶色い岩山の空間に雲海が棚引いている。前方に立ちはだかる最後の岩屑
だらけの崖を越えると右手に笠ヶ岳が夕暮れの紅い筋を引いている。


時刻は17時を回り薄暗くなってきたが正面に奥穂高岳が見え、その手前のコルに穂高山荘の屋根が見えてほっとする

先ほどから後ろに外国人のカップルがいるらしく英語の声が聞こえていたのだが、涸沢岳の山頂に居ると追いついてきた。
国籍を聞くとオーストラリア人だと言う。「グッダイ」と挨拶をして記念写真を撮り合う。 男性は大きなキスリング
タイプのザックを背負っているが、山荘を予約していると言うので「アンタに合うサイズのベッドは無いよ」と言うと
首をすくめて笑った。涸沢岳には夕陽を撮影に山荘から数人登って来ていたが、寒いだけで雲が厚く綺麗な夕焼けには
ならなかった。


 
            最低コル                   鉄梯子があるから楽です

 

 
    後ろから登山者がやってきた               崖には鎖があり思ったより手がかり、足場がある

 
ちょっとスラブっぽい場所をコルへと渡る             最後の登りとなる岩場


   振り返るとガスが薄くなり大キレットと槍ヶ岳が現れた


             槍ヶ岳                              北穂高岳

 
   笠ヶ岳上空が夕日に染まる                      ジャンダルムと西穂方面

 
オーストラリア人のカップル  下に穂高山荘が見える              涸沢岳山頂


穂高山荘に降りると、上から見たテン場と思われた場所はタンクの設置場らしく、既に満席状態だった。風下の涸沢側
に人がいたので「その辺りに空いてる場所はありませんか〜」と聞くが「無い」との返事。仕方なく風が当る側を探す
と石垣の向うが一箇所空いていた。


とても風が強くてテントを張る時に生地やフライが飛ばされて往生した。何とか張り終えて山荘へテン場の申し込みに
行くと「もう場所がないからトイレの横に張って下さい」と言う。「一箇所ありましたよ」と言うと納得してくれた。

結果的には場所のイメージは悪いが、雪が残っているもののトイレ横が風当りが少なかった様だ。

牛乳と水を買いテントに帰ってホットミルクと鮭茶漬け、チョコレートのかけら、粉末卵酒が夕食だった。テントが飛ば
される程猛烈に風が当たり中々寝れたもんではなかった。涸沢と違って背中は快適な平面であるが今度は風が強すぎる。
なかなか500円ポッキリで快適な居住空間を確保する事はこの時期難しいものだ。


 
  夕暮れのジャンダルム                           ホットミルクに鮭茶漬け

どんな状況でもイビキをかいて寝られる豪胆さが欲しいものだが、どうも私は山男には向いてないひ弱さを自覚する
夜だった。



第3日目・4日目 奥穂〜ジャンダルム〜西穂〜岳沢ヒュッテ〜上高地 は ここ

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