平成22年2月20日 成藪 −旭の岩屋 ー三ヶ森(みつがもり) − 成藪


幻の洞窟「旭の岩屋」経由「三ヶ森」(みつがもり)に直登   


                  旭の岩屋

鞍瀬の頭から三ヶ森へ至る北尾根縦走を以前から計画していた。そんな時リップさんから三ヶ森の様子を
伝える書き込みがあった。
三ヶ森は正に石鎚展望所と言われるだけあって南側に石鎚山に連なる山塊が見渡せるらしい。

この縦走の最終地点辺りの土地勘を持つために三ヶ森に行くことにする。今まで縦走最終地点のツメが甘く
幾度辛酸をなめてきた事か。
但し三ヶ森へは丹原町方面から楠窪林道が延びており、硬派山歩きにはちょっと
迫力不足は否めない。

そこでひらめいたのが三ヶ森の東斜面にあるという「旭の岩屋」だった。

「旭の岩屋」という名前は山仲間の与力さんのお友達がこのHNを使っており知っていた。その人がとても
気さくな方でゆったりとしていて味のあるお医者さんだったのでこの名前の印象がすこぶる良い。その時に
インターネットで検索すると愛媛労災病院山の会のレポがヒットして、旭の岩屋とは石鎚山系には珍しい
小規模な鍾乳洞である事がわかった。その他には自然散策という愛媛の方らしいブログにここが紹介されて
いるだけだった。


愛媛労災病院山の会 旭の岩屋は ここ
               更にもう一つの記事は ここ
  このサイトの管理者は転勤で四国を離れてしまったらしいが、鉱物や歴史書など多趣味で色んな事に造詣が深い
  
自然散策の旭の岩屋は  ここ
  この方もマイナーで面白い所を訪ねてブログにされている。

そもそも石灰洞・鍾乳洞(しょうにゅうどう)は石灰岩の主成分炭酸カルシウムが雨水や地下水に含まれる
二酸化炭素により年月をかけてゆっくり溶けて出来る空洞である。この重炭酸カルシウムとなって溶け出した
ものがポタリ、ポッタ〜〜ンと真下に落ち再びそこで結晶し石筍(せきじゅん)となりあの芸術的な洞窟が
出来るのである。

つまり、この様な洞窟があると言う事は、小松・西条地区のこの辺りに珊瑚や甲虫類が浅い海底に堆積した
石灰岩
あるいはちょっと変成された石灰質片岩がの存在するって事になる。何故旭の岩屋が石鎚山系では珍しく
貴重な洞窟なのか? その理由の秘密は石鎚山系の地質構造にある。



 

(大鹿村中央構造線博物館サイトよりの資料)


関東から九州にかけて中央構造線という大断層が走っているが、これが四国では徳島の吉野川から法皇山脈・
赤石山系・石鎚山系の北側を通り、桜三里を経て佐多岬まで走っている事は学校の授業などで殆どの人に知られ
ている。

これを境に北側(内帯)は低圧高温の変成作用を受けた花崗岩を主体にする「領家帯」とよばれ、高縄半島や
香川県がこの圏内に入る。この中には砂岩を中心とする「和泉帯」というのもある。

中央構造線の南側(外帯)は大きく別けて三層になっており、一番北側には堆積岩系が高圧低温変成を受けた
結晶片岩などの変成岩地帯で「三波川変成帯」と呼ばれる。石鎚山系、赤石山系、法皇山脈、奥工石山、
奥白髪山、稲叢山、国見山、中津山、矢筈山、高越山辺りまでがこのエリアに含まれる。

三波川変成帯の南縁は、御荷鉾(みかぶ)構造線が走っており、これをはさんで南側は、粘板岩や石灰岩を含む
比較的弱い変成を受けた「秩父帯」と呼ばれるエリア。ここには天狗塚から三嶺、剣山、石立山、不入山、
大川嶺、四国カルスト、鳥形山、石立山さらに雲早・高丸・高城、西三子山と断然石灰岩質の山が多い。


更に仏像構造線を挟んで南側に砂岩や頁岩、石灰岩を含む「四万十帯」と呼ばれるエリアでここには甚吉森、
千本山、三本杭など南予の山がこの帯の中に入っている。


    



そしてこの石鎚山系が含まれる「三波川変成帯」には石灰岩が非常に少なく、従って鍾乳洞も当然非常に稀だと
言う事になる。 これが「旭の岩屋」の希少存在価値というのである。


そもそも地震などで地球は動いている事は実感しているのだが、海洋プレートが大陸プレートの中に沈み込んでいる
というプレートテクトロニクスの事などは我々凡人の理解の範囲を超えている。そのような専門家によると四国の
石灰岩の存在する壮大なドラマはこうだ。


   
竜ヶ岩洞HP 洞窟の科学より 石灰岩が運ばれるメカニズム     (大鹿村中央構造線博物館サイトよりの資料)
      

我々が無造作に石灰岩の山を崩して製鉄所に運んで溶鉱炉に放り込んだり、人間社会のハード面を作り上げる為に浪費
するセメントの原料は、約3億年前赤道付近の海底火山が噴火して、約2.5億年前に噴火の収まった火山の天辺に
サンゴ礁が発達。それが積もり積もって石灰岩の地層となる。その後約1.5億年前程から海洋プレートに火山ごと
乗っかって海溝に沈みこみ、削られたり混ぜられたりした後、1年に6〜10cmの超スロースピードでずりずりと
日本近くまでにじり寄って来て、約200万年程前四国山地の隆起・造山運動に伴ってこの石灰岩が地上に姿を現した
ものである。


更に岩石の不思議さと言えば、この海洋プレートに乗って地中深く引き込まれて一旦男らしく沈んで行った付加体が、
熱や圧力でその性格まで変えた後、又地表まで「お久し振りどすえ〜」とか「お邪魔しま〜す」とかおネエ言葉を使い
ながら浮上してくると言う様な言語道断な事まで引き起こす。


この様な奇想天外な事が起こっているのが地球なのだ。この我々が何気なく立っている大地が中心部が6,000度C
の灼熱地獄の天体で、それが秒速466mで自転しているとか、太陽の周りを秒速29.8kmの猛スピードで公転して
いる事などおよそ言語道断・荒唐無稽な話だと言える。


イカン 話がちょっと脱線した。元に戻そう


つまる所、旭の岩屋」とは「三波川変成帯」に属しキースラガー(銅鉱床の元)が主体である石鎚山系には非常に稀
なる石灰質片岩(石灰岩が変成を受けたもの)が三ヶ森の雨水や地下水によって想像を超えた年月をかけ小規模ながら
石灰洞を造り上げてきた大自然の造形物なのである。



但し、その事とこの洞窟がいかに魅力的であるかという主観は又別のものである。特に高知で4年間を過ごし龍河洞を
何度もお邪魔している私としては非常に興味深い場所に違いなかった。


前置きが随分長くなってしまったが、以前ペーコちゃんがこの岩屋を単独で探索に出かけて発見できなかったレポを頂いて
いたので、マーシーさんとペーコさんも誘って「旭の岩屋」探索の旅に出かける事にした。


      
       カシミールソフトを使ったGPSトラックログ図  成藪ー旭の岩屋ー三ヶ森ー成藪
       この地図の作成に当たっては、国土地理院長の承認を得て、同院発行の数値地図50000(地図画像)を使用したものである 

07時 新居浜の山根公園でマーシーさん、ペーコさんと待ち合わせ、前回高瀑の滝へ行ったのと同じ道を辿る。数日前
の寒波で西条から見上げる四国の山は真っ白で雪山歩きが楽しめそうだ。

昼食のおにぎりといえばローソンのだし巻き卵おにぎり党であるが、西条の旧寿電気手前にスリーエフというコンビニが
あり、パンやお弁当を直接作っているので最近はここに寄る事にしている。大きな卵焼き入りの爆弾おにぎり1個あれば
簡単な山歩きには十分である。


河口の三碧橋を渡り人懐っこい老犬の横を車で轢かない様に注意して通り、虎杖(いたづり)−諏訪神社―成藪の
ヘヤピンカーブにて駐車。 08時50分ここから尾根に取り付く。


見当を付けていた沢筋を歩き09時55分 あっけなく旭の岩屋に到着。

 
    成藪のヘヤピンカーブに駐車          大岩のツララをかじる

    

                    これが幻の旭の岩屋 石灰洞

個人的には、別にこの場所の紹介をしてもそう問題ないと思うのだが、我が尊敬する山HP労災病院のサイトで、目印の
○○などと特定せず、場所を明らかにしない方が良いというニュアンスだったので、ルートの解説はこの際割愛しておこう。


「え? これなの?」「これやろなあ」入り口にて形を確認しながら尚もしげしげと見やる。 サイト写真を脳裏に叩き
込んだ記憶を辿る。うんうん これに間違い無いわ。

私が先に洞窟に入ってみる。足元は水が流れて登山靴の中まで濡れそうだ。少し入ってエライ狭そうなので一旦外に報告
の為に出る。 今度はマーシーさんがヘッドランプを装着して狭い洞窟に入っていく。しばらくして「狭すぎて奥に行け
んわ」とつぶやきながら出てきた。そんな筈はないので再び私がライトを持ってトライ。

陰気な岩穴を腹ばいになりながら生まれ出づる産道の様に狭いスペースを匍匐前進してすり抜けると何とか直立出来る
空間に出た。マーシーさんを呼び足場の悪いスペースでこの洞窟をライトで照らしてまじまじと眺める。
「これって鍾乳洞?」くねった餅の様な岩があるから一応そのようなものだろう。


前方に水音がして更に空間がありそうだが、そこへ向かってのスペースは鋭角三角形になっており無理して突入すると
それこそレスキュー部隊を呼ばなきゃ脱出出来ない恐れがありそうだった。付近の岩景色を見る限り、自己責任でそこから
進んでも更なる感激は期待できそうには無かった。


「私 お先に失礼します」マーシさんは暗くて狭い岩穴の水溜りに落ち込んで悲鳴を上げながら娑婆に向かう。私も後に続く。
ペーコちゃんときたら折角「旭の岩屋」を見つけたと言うのに洞内に入ろうともしない。きっと閉所恐怖症なのだろう。
まあ、取り敢えず第一目標に到達出来た事を記念して写真を撮る。

 
       水が溜まっている                       気味が悪いがちょっと入ってみませう

 
 お尻が引っかかって行けそうになりません                とりあえず奥に進んでみませう

 
     広場の天井を見上げる                     それ以上は狭そうでカンベンして

 
   ワタシャ  お先に失礼させて頂きます              うひゃ〜 水溜りに落ちた〜


          確かにエイリアンの体内みたいで鍾乳石の感じが出てますね  

 
        小滝                                  早く出たいよ〜


             なるほど    まあ 納得しましたわ

さて・・・ここからいよいよ本番の三ヶ森這い上がりに取り掛かる。道? そんなのある訳ない、テキトーね

10時24分、ビミョーに複雑な気持ちで幻の洞窟に別れを告げ、右手に回り込み斜面を這い上がる。斜面は急だが
立ち木があるので滑落などの心配は無い。木を掴んだり、木を滑り止めにしたりして雪の斜面を這い上がっていく。


10時50分痩せた支尾根に這い上がり、この尾根沿いに更に高みへと進む。この支尾根が無くなると雪の岩斜面となり獣道を
辿って行く。雪の上に付いた獣の足跡は実に合理的な方法でこの斜面をクリアしている。右手に見える虎杖への尾根の高さを見比べ
ながら、もう少し、もう少しと歩みを進める。


 
            斜面を這い上がる                岩場の方がスペースがあるので這い上がり易い事も


              向かいのお山は虎杖への尾根じゃ

 
          支尾根に一端這い上がる              雪の斜面を獣の足跡を追う

 


                 中々良い景色の岩場に出た

 
      雑木林の雪景色もいいもんじゃ                   う〜〜ん  雪が深い

 
       結構楽しい雪山歩き                    尾根筋に出るとルートが限られるので障害物も多い

1200時 虎杖(いたずり)の尾根に合流すると雪を沢山乗せて垂れ下がった枝が進路を防ぐが、この雪は凍っているので全身
真っ白けになる悲劇は免れる。しばらくすると
前方に鋭い円錐形のピークが見えた。その右奥にさらに大きな山塊が
白い雪を被って聳えている。目指す「三ヶ森」(みつがもり)は奥側のピークだ。


岩の多い手前のピークを越えると辺りはなだらかになり、12時40分大きな反射板が二つ並んだ場所に着く。設置板
を見ると「伊予テレビ・(新居浜向け)三ヶ森反射板 平成4年8月 NHKアイテック」とある。この反射板を越え
ると更に広い樹木広場となっていて、雪を被った木々の雰囲気がとても良い。


その樹木の前方に白い三ヶ森の山塊がデンと構えている。 樹木広場を斜めに横切り、右手の高みから更に前方の細い
斜面へと取り付いて行く。 急な細尾根を這い上がると左手に石鎚山の巨大な山塊が現れる。残念な事に8合目以上は
雲に覆われている。右手にも別な尾根が見える。


13時20分狭い山頂に着く。


           尾根筋に出た途端 前方にピークが見え、右奥に三ヶ森が現れる

 
            細尾根を進む                       尾根道を手前ピークに進む

 
            獣道のクロスポイント               反射板越しに三ヶ森が見える

 
            樹木広場                        三ヶ森への登り

 
            石鎚山の山塊が見える                確かに眺めが良いが狭い山頂やね

13時20分三ヶ森(みつがもり)に到着。前方には先ほど見た石鎚の巨大山塊が大部分を雲に隠して横たわっている。
 その山塊の右端には堂ガ森と反射板が見える。丁度堂ガ森が見える高さまで雲がかかっており、その左手は隠れて標高
という格の違いを見せ付けている。


振り返ると西条の町と瀬戸内海がここには無い日差しを受けて暖かそうに輝いていた。やはりリップさんが絶賛する
ように360度のパノラマが広がっていた。これで石鎚が見えたら何と素晴らしい事だろう。


ザックを下ろして昼食にする。初めて使う魔法瓶のお湯は湯気をかろうじて立てているが決して熱いとは思えなかった。
案の定、カップラーメンの塊はほぐれないままだった。


ペーコちゃんがバーナーを持ってお湯を沸かしていたので、残りのお湯を温めてもらいコーヒーを入れた。やはり冬場は
バーナーを持っていくべきだなあ。


三ヶ森から鞍瀬の頭まで続く稜線は長くて弓なりになっていた。う〜〜ん これはやはり上から下がるべきだ。

 
              三ヶ森 山頂                       高瀑の滝と思われる付近


                 山頂から石鎚山方面はボケている


これがリップさんが掲示板に貼ってくれたクッキリハッキリの石鎚山系   正面に壮大な鞍瀬の尾根が見える

 
   そうそう  ヒコーキ編隊姿も                     さて  どの辺りから尾根を外したらいいかな?


13時50分下山開始。帰りは出発した尾根かそれよりもう一つ手前の尾根のどちらかに沿って下りようと話し合っていた。
三ヶ森を北側に下がり、14時13分来る時に地図で目星をつけていた樹木広場付近からテキトーに右前方に向かって
下がる。


20分位斜面を下っているとモノレールが現れた。 この辺りは植林などが無いし現役としては使われていない錆だらけ
である事から恐らく反射板の工事用に使った物だろう。このモノレールは我々が意図した下山ルートより尾根を北側に
大きく外して伸びていたが、「モノレールに沿った方が堅いやろ」と3人の意見が一致してこれを辿る。


 
           三ヶ森を振り返る                     雪道の下りは楽だ


                   樹木広場まで一気に下る

 
     樹木広場を右手に進む                     この辺りから下がりましょか

 
   雪を潰しながら樹林帯の斜面を降りる              最初はちょっと笹などもある

 
    おっ  前方にモノレールが                     獣が集まって土を掘り返している


獣の集合地が沢山在り、藪っぽい斜面が続く。 途中からモノレール街道は右手の沢筋に向かって下りて行くので
辛抱出来ずにコースを外して左手に進路を変える。既に尾根筋を外してはいるが、大きな崖は無く雑木が沢山生えて
いるのでなるべく左へ迂回しながら斜面を下がる。

中ぐらいの幹に灸(やいと)の様に沢山の刺を持った木が沢山生えており(KYOさんからカラスザンショウと教えて
もらう)、時々「痛〜い」とか「あ〜」とか声が山を木霊す。ペーコちゃんは暑くて手袋を脱いでしまった為被害を
受け両手がリバテープのお世話になった。


左手の尾根筋までは遠いので沢筋のルートを無理して下がると、荒れた広い林道に下り立った。しかしこの林道を少し
利用をするが、荒れ沢の為に崩壊しておりここから又テキトーに藪っぽい沢伝いを下がる。


 
    モノレールは右手の沢に向かって下りていく        この辺りでモノレール道を外そう

 
向かいの山肌を見ながら気持ちの良い斜面を下がる     これが痛い思いをしたカラスザンショウの幹

 
    崖を下ると荒れた林道があった                    藪だらけの林道

 
             沢筋を下る                    藪だらけの沢筋をやっと下り着く

 
    沢に橋がかかった場所に下り着く               成藪集落跡を歩いて車を目指す

15時48分砂防ダムのある橋の傍らを車道に下り付く。三ヶ森山頂から約2時間半で下りた事になる。この事は、もし鞍瀬
の尾根筋から登山道を外しても2時間半程東側に下れば高瀑の滝への車道(林道)に下り付く事を意味する。

今は住む人が居ない成藪集落跡には石垣や家屋が残されており、この寂しい部落を抜けて16時00分車に復帰
する。

旭の岩屋から三ヶ森(みつがもり)に這い上がる痛快な雪山歩きだった。
マーシーさん ペーコさん お付き合いをありがとう

        
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