平成21年10月4日 石鎚東稜コース、墓場尾根へ


土小屋ー石鎚東稜ー南尖峰ー墓場尾根ー天狗岳ー弥山ー土小屋コース

日ごろから娘のジュンジュンにコーヒーをお世話になっているお礼に母トンちゃんとダイヤモンド父ちゃんを石鎚東稜コース
にご案内して、ダイヤモンド父ちゃんの高所恐怖症の体質改善を目指す事になった。私一人では重荷なのでマーシーさんに
アシストをお願いする。

東稜コースは見た目よりは容易で、体力任せに南尖峰の直下まで這い上がる事は可能だ。問題は岩場に慣れていない人
が南尖峰直下にある3mの岩盤をアシスト無しに這い上がれるかどうかなのだ。今回はマーシーさんも一緒なのでいざとなっ
たら二人で踏み台になれば良い。

快晴の天気に恵まれ土小屋を出発。登山道にはリンドウの紺色に近い青が鮮やかに咲いていた。土小屋から約1時間で
東稜分岐の休憩所に到着し、一見怪しげな入り口を東稜に登って行く。


                  さ〜〜  これを登っていきま〜す


 
      リンドウの色が鮮やか                     もうすぐ東稜分岐

 
       笹ヶ峰をバックに笹原を進む              笹が深いが踏み跡はしっかりしている 後に岩黒山

東稜基部休憩所を少し回り込む様に裏手に進む。踏み跡はしっかりしておりまず迷う事はないだろう。高度を稼いでいくとやがて
笹が深くなり、白骨林が現れる。 この辺りはドウダンツツジの紅葉が白骨林風景とマッチしてとても良い雰囲気だ。

更にすすむと矢筈岩を左に巻くように踏み跡が続いている。この辺りの岩と笹の風景は四季を問わず東稜コースの目玉となって
いる。最も傾斜がきつく大変なのもこの辺りである。

切り立った大岩の間に滝が流れる様に上から笹が落ちて来る。笹を掴みながら這い上がり、時折振り返ると氷見2千石原を抱いた
瓶ヶ森のどっしりと融通の利かない姿が目の高さに飛び込んで来る。爽快な風景だ。

手前に形の良い「大森山」が見えるが、この1400m程の標高を持ついっぱしの山も天下の石鎚山と瓶ヶ森の間に位置する為
不遇の存在となっている。

 
      白骨林あたりは紅葉が素晴らしい             振り返ると岩黒・筒上山・手箱が見える


あそこまで這い上がっていくのだ  正面に「笹滝」 (エントツ山命名) が見える

 
    矢筈岩までは笹を掴みながら這い上がる               笹滝手前


              正面に美しい岩に囲まれた笹滝が見える


笹滝を這い上がると手前に大森山、その向うに瓶ヶ森、西黒森、伊予富士が同じような高さに見える

笹滝を過ぎてシャクナゲのある最初のピークがあり、そこは石鎚南沢からの這い上がり口となっている。シャクナゲ林の
外れにある岩場から大男が座っており人懐っこい笑顔でこちらを見ている。 おりょ? そのダブルストックとデジカメを片手
に構えた姿は「おじょもさん」じゃあ〜りませんか〜

とんちゃんは初めて見るこの東稜景色に感激している様だ。でもダイヤモンド父ちゃんは「素晴らしい!」という言葉とは
裏腹に、頭上にはまるで垂直に見える南尖峰の岩山が覆い被さる風景を見てきっとビビッている事だろう。でも仲間と一緒
という安心感は何物にも変えられない鎮静剤となる。

もう一つのピークを越えると「カニの横ばい」と命名した岩場となり、ここをクリアする鞍部は石鎚中沢の這い上がり口となって
いる。おじょもさんは相変わらず後から皆の写真を撮りながらニコニコ顔でゆったりと付いて来る。


                        南尖峰の岩壁が迫って来る

 
  あんりゃ  おじょもさんじゃあ〜〜りませんか          トンちゃん 感激の景色

 
     ドウダンツツジの紅葉と南尖峰                 カニの横ばいもクリアー


   さあ これからが正念場  初めて来る人にはちょっと怖い風景だ

さあ、カニの横ばいを超えるといよいよ石鎚東稜コースの正念場となる。見上げるほどに「ホンマにこんな場所這い上がれる
んかいなあ?」と不安になる。 でもいざ取り付いてみると不思議と手がかり、足がかりのあるルートが南尖峰直下まで続いて
いるのだ。

背の低いトンちゃんは高度差のある岩場の這い上がりが不利であるが、歳の割には身が軽く度胸もありスルスルと付いて来る。
ダイヤモンド父ちゃんは体型に似合わず少々ぎこちない動作ではあるが、先祖から受け継いだ背の高さをフル活用して這い上
がって来ている。

問題の岩盤這い上がり場所にやってきた。ここは3m程の頭上に岩の割れ目から2枚の足場がうまく突き出ており、ここまで
何とか這い上がらなければならない。

私は左側の岩の窪みを利用して上側の割れ目まで這い上がり、この割れ目に沿って右手に移動し、中央の足場に飛び上がる。
マーシーさんは右側の一見足がかりのない岩盤の弱点を探して、中央の足場まで這い上がる。

ここは私がアシストするトンちゃんが左側から、マーシーさんがアシストするダイヤモンド父ちゃんが右手からそれぞれにクリア。
細い足場まで上がれればあとは問題なく直ぐに南尖峰に至る。東稜基部から約1時間20分で南尖峰に着いた。
 

トンちゃんは軽やかに這い上がる  下にカニの横ばいが見える


この正面の細い足場までどう這い上がるかが問題だ。 私は左の岩の裂け目を利用する マーシーさんは右手から

 
   まず トンちゃんがあっさりと這い上がって来た       ダイヤモンド父ちゃんは恐る恐る確実に這い上がる


    南尖峰の岩場から下を見る。 おじょもさんが見える

南尖峰に上がって岩の上で昼食を取る。二ノ森方面がドウダンツツジ越しに美しいシルエットを見せている。樹林帯の上に
広がる笹原が厳(いか)つい山の姿にのどかな柔らかさを与えている。登山者が山を眺めるという行為は、もしかの山を歩い
たという実績と記憶があればただ美しいというだけに留まらず、更にある種の情感を伴う。ゆったりと南尖峰の岩に座って
眼下に織り成す山並みを眺める。

時間があるので「墓場尾根の途中までおりませんか?」と誘うと二人共行くことに同意。墓場尾根へはちょっとしたルートの
コツがあり、これさえ理解できれば安全に訪れる事が叶う。

慎重に踏み跡を辿って南斜面を降りていく。右手の天狗岳方面には白骨林、左手の岩場にはコメツツジの紅葉と、中々の
景色である。いわゆる土壇場まで下りて来ると、そこにいくばくかの平らな段がありそこから下へは行き詰る。

以前、墓場尾根へは更に下るのかと思いロープを使って崖下へ下りた事がある。ここは断崖絶壁に阻まれて、復帰するのに
往生した経験がある。

この土壇場から東側の岩場を這い上がる事になるのだが、マーシーさんやおじょもさんは岩場を既にショートカットして墓場尾根
へ向かっている。 上からおじょもさんが「大丈夫ですから行きましょう」と声をかけるとトンちゃんが行くと決心。
高所恐怖症のダイヤモンド父ちゃんに暫くそこで待って貰う事にして我々も墓場尾根へ向かう。

 
     定番のドウダンツツジと二ノ森               南尖峰を南側に下りると更に白骨林を見る事が出来る

 
     岩場に沿って南側へ下りる                   トンちゃん達も後に続いてくる


                  大砲岩と墓場尾根(柱状尾根)

岩を這い上がって、右手に渡る。岩の裂け目があるのでトンちゃんをアシスト。墓場尾根に至る入り口は正面突破ではなく
まあ言わば裏口入学って所である。この裏口入学の門をトンちゃんと手をつないで墓場尾根大学の構内へこっそりと入学
する。

藪っぽい岩場をすり抜けると平たい展望岩に出る。この辺りの真っ赤な紅葉は主にドウダンツツジの様である。北沢から
這い上がって来るとまぶしい限りの真っ赤な樹海が眼前に広がり、この急斜面を這い上がると墓場尾根に至る。

この北沢の終着駅に立って尾根を眺めるとその先に柱状節理の岩がまるで塔婆の様に突き立っている。その向うに背景と
なっている山壁は緑に覆われていて一際(ひときわ)この不細工な石の芸術を浮き上がらせる。

マーシーさんは既にこの墓場尾根の先へ向かっているので、トンちゃんと後に続く。岩の柱によじ登り、中世ヨーロッパの
ゴシック建築の様に天に聳える南尖を眺める。石鎚山の名所は沢山存在するが、この墓場尾根から見上げる南尖峰も石鎚
を代表するダイナミックな風景の一つだ。


          紅葉の向うに墓場尾根がそそり立つ

 
    おじょもさんがあんな所から手を振る            バンザ〜イ こんな所までやって来れました


                      おじょもさん撮影の墓場尾根での3人


これぞ自然の芸術  墓場尾根から見た 南尖峰


                          ついでにヒコーキ姿も

去りがたい風景を何度も振り返りながらダイヤモンド父ちゃんの待つ場所に帰る。心配そうなダイヤモンド父ちゃんの元に
トンちゃんを送り届けて又南尖峰へと登り返す。いい天気に恵まれて大勢の登山者が弥山からこの南尖峰まで足を伸ばして
来ている。

人間にも正面と後姿が違う様にこれから進む「天狗岳」も弥山から見る姿と、南尖峰から見る形が違う。個人的には後者の
北側が鋭く切れ落ちた後姿が好きだ。皆を天狗岳へ先に行って貰い写真を撮る。もうトンちゃん達も岩場に慣れて平気で
トン先まで歩いている。

 
ダイヤモンド父ちゃんが待っている土壇場まで下りる       南尖峰へ這い上がる

 
   おじょもさんはダブルストックでショートカット           岩尾根を天狗岳へと進む

        
         天狗岳はこちらから見る姿が好き  ダイヤモンド父ちゃん余裕で手を振る

  
      天狗岳山頂をズームアップ                  おじょもさんもやって来た

天狗岳で皆に合流して弥山に進んでいると、外れの岩場にザイルを巻いた岩登りのトップが後続を確保している。近づくと
ガクちゃんの岩登りの先生である「社長」だった。あれ?・・って事はひょっとして・・・

ガクちゃんの岩登りに遭遇

恐々(こわごわ)崖下に身を乗り出すと二人が岩に取り付いている。よ〜〜く見ると最後に登っているのがガクちゃんじゃ
あ〜〜りませんか。 「ガクちゃ〜〜ん」と不用意に声を掛けて躊躇した。こんな命を賭けて垂直の岩に取り付いている岩ヤに
気軽に声をかけちゃマナー違反? すると下からガクちゃんが「お〜〜〜い」と手を振った。 ありゃ 結構余裕あるじゃん。

それからは総出でガクちゃんの応援に回る。ちょっとぎこちないが着実に這い上がってくる。いくらザイルが切れないって言って
もそんなもんに命を賭ける人間の心理が理解出来ない。落ちたら死んじゃうよ〜

 
         天狗岳で記念写真                   あれ? 誰か岩登りをしているぞ


           ガクちゃんの岩登りを見学するエントツ山とトンちゃん

 
     社長、と〜ちゃん達と                    スポーツカーのと〜ちゃんとおじょもさん

 
あれ? どこかで見た事のあるデコ人形がいるぞ          スパイダーマンか?


        何じゃ〜〜  ガクちゃんじゃないの

近づくと結構アブミとかカラビナとか色んな金属製の道具を沢山ジャラジャラと体に下げている。こりゃ結構重いぞなもし。
みんなの注目と声援を受けて花道を這い上がってくるこのデコ人形はやっぱりカッコいい。 でもこんなマネはしない!

上で確保する社長と見物するおじょもさん、松山のと〜ちゃんの元に這い上がると周りの見物人から一斉に拍手が起こった。
何か見物料を払っても良い位に思える大道芸を観戦して得した気分になり弥山へと進む。

 
        ちょっとアップして見る                 沢山 道具をぶら下げていること

 
       もう少しやで〜                         やっと到着  みんなで拍手〜〜

弥山に這い上がると結構登山者で混んでいてガクちゃん達を待っていると、急に華やかなムードに包まれた。登山者に混ざって
リゾート地からワープしてきた様なスタイル抜群のロシア娘が弥山に紛れ込んできたのだ。見ると旧式のデジカメを下げている。

「あなた達はこの山の風景より綺麗です。 写真を撮ってあげましょう」と英語で問いかけると「お願いします」と言うので老眼に
厳しい小さなモニター越しにカメラを構える。すると周りのオッサン達が一斉に自分のカメラを構えてさながら撮影会みたいになって
しまった。(その中に「おいわさん」もいたらしい。

罰当たりな撮影会が終わって石鎚山を後にする。

 
              弥山に向かう                弥山は結構混雑していた

 
ロシア人がラフな格好で来ていた みんな目が釘付け     ガクチャン 社長 お疲れ様〜

石鎚東稜コースを克服したトンちゃん夫婦は一層逞しくなり、四国の山歩きをリードする存在になってくれるだろう。そんな
山歩きのレベルアップのお役に立ちマーシーさんもエントツ山も満足の内にロシア人の白い足が脳裏にちらつきながら土小屋
に帰還したのだった。


同伴の 「おじょもさん」の石鎚東稜 は ここ
高御位山隊との石鎚東稜は  ここ

    
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