イノシシ達の挽歌
平成22年5月3日 「西黒森」南東尾根を這い上がれ

副題: 誰が行くか〜  こんなとこ


川来須(かわぐるす)・西条− 西黒森・北東尾根− 西黒森− 自念子の頭(じねんごのあたま)


カシミールソフトを使用したGPSトラック・ログ図
この地図の作成に当たっては、国土地理院長の承認を得て、同院発行の数値地図50000(地図画像)を使用したものである 

西黒森山は北側の扇山尾根から見ると三角錐の厳しい尖がり帽子に見える。瓶ヶ森林道が無い時代には
中々アプローチが難しい山だったろう。西条の川来須(かわぐるす)から愛媛県側を旧寒風山トンネルへ
進むと先ず西黒森山への長い尾根が見渡せ、西黒森の手前に別なピークが存在するのが見える。
更にトンネルに近づくと今度は伊予富士から北側に延びた尾根の全容が見渡せる。



瓶ヶ森林道からみた西黒森と北東に延びる尾根

川来須の標高が約500m、旧寒風山トンネルの登山口の標高が約 1,150m、この標高差を車でカバー出来る訳
である。
一方直接尾根を這い上がる標高差は西黒森が標高1,861m あるので約1,300mとなる。

川来須(かわぐるす)とは

川来須(かわぐるす)という場所は新寒風山トンネルの手前にある小集落地で、かつてこの辺りは別子銅山
の炭供給地としてその経済圏に組み込まれていた。


ここから天ヶ峠〜宿(笹ヶ峰中腹)〜西山越〜ちち山北斜面(鈴尾谷の上流域)〜馬道の別れ〜大阪屋敷〜
高橋精錬所 あるいは馬道の別れからなすび平を経て高橋精錬所へと炭や薪が馬で運ばれていたらしい。


また昭和初期からは扇山中腹の「新居鉱山」(昭和8年から27年)や桂谷奥にあった基安鉱山(明治から
あり、昭和18年から47年まで住友鉱山)の鉱石集積地として栄えた。


この辺りからの「バリエーションルート登山口」として、川来須の少し上流で加茂川本流は、右手に大保子谷
へと分かれ「瓶ヶ森・大保子谷コース」、本流と大保子谷間の尾根を詰めると「西黒森北東尾根コース」、
更にその上流で左の桂谷、右の主谷へ分岐する。 この間の尾根を詰めると「伊予富士北尾根コース」と
なる。


今回は大保子谷入り口から正面の尾根に取付いて西黒森を目指す事にする。


 
川来須付近から西黒森への尾根ルートを眺める          旧寒風山トンネルへの旧道から見た西黒森と北東尾根

親父が正月明けに肺炎で入院し、その後も嚥下障害による肺炎を併発したりして入院したまま次第に弱って
いた。しかし基礎体力があるのか病状も安定している事と連休で東京と長崎の兄貴達が帰省していたので何か
あっても安心だったので、以前から計画していた西黒森への直登這い上がりと伊予富士からの直下がりを
1泊2日で出かける事にしたのだった。


平成22年5月3日08時20分川来須を過ぎて旧寒風山トンネル北口付近に加茂川支流の「谷川」へ下りて
行く車道がある。すぐ近くの橋を渡り以前マーシーさんと大保子谷から瓶ヶ森を目指した時に駐車した川原に
車を置こうとしたが進入禁止の柵があったので又橋を渡り返した広い場所に駐車する。


当然左手の斜面取付き口には道はないので、08時30分登り易そうな場所を探して適当に這い上がる。
植林地帯でスペースや手がかりはあるものの、その斜面の急な事。よくもこんな場所に植林したものだ。


 
加茂川上流の谷川から伊予富士への尾根を見る                 大保子谷への橋

 
 まあテキトーにこの辺りから這い上がりましょか           植林地帯だけど傾斜が急だし岩も多い

1時間弱この植林の急登と格闘すると09時23分自然林と植林地帯の境界を歩く事になり、丈の短い笹も
現れた。左手は暗い植林であるが、右手は自然林の上に開けていて向いの扇山が良く見える。以前マーシー
さんと夜にこの急な斜面を下ったのを思い出した。 そう言えば随分無茶な事をしたものだ。


 
    植林と自然林の境界尾根                     扇山が右手に見える  こちらの傾斜も鋭いわ

更に急な境界地帯を這い上がって行くと右手の崖にミツバツツジとアケボノツツジが現れた。
植林の細尾根はどこまでも続き、アケボノツツジが結構あちこちで咲いている。
10時27分尾根にシャクナゲが現れると案の定必須条件の岩が出てくる。

10時44分左手が崩壊して見通しがよい場所にやってきた。何だか白潰(しろつえ)を思い出した。
この崩壊地のおかげで行く手の遥か彼方に西黒森山の前衛峰が見える。左手にはお馴染みの寒風山が姿を現す。



 
細尾根はルートがはっきりしていて歩きやすい               シャクナゲも現れる


 
崩壊地に出ると見通しが良い  登るべき前方が見える      寒風山方面が見渡せる


10時56分岩アケボノツツジの横を抜けて斜面に出ると景色が良い。すぐにモミの大木があるコルに出た。
急な尾根を歩いていて、所々に現れるこういう平らな場所には好感の持てる雰囲気があり、厳しい歩きの中で
ひと時の安らぎを与えてくれる。


 
         雰囲気が良いモミのコル                 岩と格闘するように生えている


11時06分アケボノツツジを天辺に抱いた大岩を通過するとそこからは岩が沢山出現し、あちこちに
アケボノのピンクが見える。


11時30分ルート上の岩場の上にはアケボノツツジが咲いており、絶壁の横を枝を避けながらすり抜ける
バックには寒風山から笹ヶ峰への稜線が延びている。こちらから寒風山を見ると前衛峰の岩が右手に突き
出ていいるので同定し易い。


 
     大岩の上にアケボノツツジが咲いている              尾根筋にも巨大な岩盤がある


アケボノツツジの咲く岩場をすり抜ける     寒風山が正面に見える

 
    穏やかな日差しに里山の様な風景                アケボノツツジが出現する度に近寄って眺める


そこからは潅木が生い茂る自然林となり、まだ葉を付けていないので見通しがとても良い。柔らかい春の
日差しを受けながら斜面を進む。足元には高度を上げるにつれて笹が現れ、傾斜も急になる。急な斜面を
振り返ると寒風山、笹ヶ峰から沓掛山が見える。


12時30分笹が美しく斜面に広がるコルに到着。この辺りの谷間は厳しい岩が切れ落ちている場所が多い
のであるが、ここでは一面笹が斜面を覆いそこに林立する大木と共に柔らかな風景を作る。



          黒森山  沓掛山            笹ヶ峰              寒風山

 
     潅木を掴みながら斜面を上がる                これこれ 薮尾根歩きはこの風景がいいのよね

 
            寄生植物                       こういう平坦な場所がホッとするわい

 
     傾斜に木々が生えていて美しい                 笹が多くなってくる


そこから笹の斜面を獣道に添って進んでいると、獣道のど真ん中にいるマムシといきなり目が合った。元来
蛇は大人しい生き物であるが大体が人間に毛嫌いされている悲しい宿命の動物だ。私も例に漏れず大の苦手
である。
一匹でも遭遇するものならそれ以降は木の根っこが全て蛇に見えてくるのだ。幸いにもマムシはその色合い
から判別がつきやすくお互いの軋轢を回避し易い。こういう標高の高い場所でマムシに出会う事は珍しく近寄
っても鈍いのであまり動こうとしない。獣道を迂回しておさらばする。(写真を貼るのは遠慮しとこう。)


                   
13時頃から岩尾根となり、13時35分絶壁を持つ大岩が現れた。すこぶる景色が良いのでここで昼食と
する。どんな薮尾根を歩いていても必ずどこかで素晴らしい景色にお目にかかる事が出来る。霧の中を歩いて
いるとス〜と霧が晴れて美しい景色が現れ嬉しくなる様なものだ。



        ここに来てやっと西黒森本峰が姿を現す  でもそれまで沢山のピークがある


 
       いよいよ本格的な岩尾根となる             いや〜〜ん 鋭い岩尾根があるよ〜


 
   こりゃ 素晴らしい場所じゃわ         でもさあ 虫ネットは外せないのよね



    
    岩場は山歩きにとって本当にいいアクセントになる

15分位休憩の後出発。この後も岩尾根が次々と現れ右手に迂回する。モミの大木が見え来ると14時30分
第一尾根ピークに到着した。ここからは前衛峰の厳しそうな塊が見える。ここを又右手に迂回して15時 
前衛峰に這い上がる。


 
       モミの樹と岩尾根                       笹とブナ

 
   道はないのだからルートは自分で決める                  薮尾根を進む

 
     前衛峰が現れ地図で場所を確認する            右手に西黒森本峰が見える



               どっしりと高く構えた前衛峰が眼前に現れる

 
     岩尾根を右や左にルートを探しながら歩く          雰囲気いいでしょう〜


15時17分 やっと西黒森本峰が前面に見え出した。また岩尾根を迂回し前衛峰を振り返る
16時岩尾根をもがいて最後の藪っぽい高みへ這い上がると16時18分お馴染みの西黒森山頂に着いた。
実に8時間弱ひたすら尾根を這い続けた訳だ。



    やっと西黒森の前までやって来たが、ここからまだ1時間もかかるのだ

 
  前衛峰と本峰の間にはこの様な平和な場所がある       笹尾根を伝って西黒森の本陣に迫る

 


            あんりゃ  まだこんなに鋭いピークがあるじゃん

 
        前衛峰を振り返る                          もうそろそろ本峰じゃなかろうか

 
       岩尾根を這い上がる                            最後の岩場


              潅木ブッシュの間から這い上がってきた尾根を見下ろす


              
                      16時18分 西黒森山頂に着いた

結局登山口から7時間45分かかって西黒森の山頂に着いた事になる。その後17時50分じねんごの頭に
寄って瓶ヶ森林道へと降りる。


途中、携帯電話が通じる所で実家に電話すると、午前中一時親父の容態が思わしくなかったのだが、
今は持ち直したので山に居ても良いとの事だった。予定では尾根筋でテント泊して伊予富士から川来須へ
下る予定だったが、でもやはり気になってマーシーさんにお願いして今回の山歩きを途中で中断させて
貰った。



                  西黒森山を登山道から振り返る


                  登山道からの景色  ブナの形が美しい


                           いい風景だこと

 
         自念子の頭へと向かう                  登ってきた尾根のシルエットを眺める


                 


瓶ヶ森林道を使うのも山登りの一つの選択肢に間違いは無い。では瓶ヶ森林道が無かったならば・・・・ 尾根の下側から
これら瓶林沿線の山に登ることが可能かどうか・・・  こういう検証を行う事も又楽しい山歩きのテーマでもある。

「西黒森・南東尾根」この長い尾根を一緒に歩いてくれたマーシーさんのお陰で私の尾根這い上がりシリーズに新たな
1ページを加える事が出来た。

       
             目次に戻る              トップページに戻る