2006年10月20日 石鎚北沢コース
イノシシたちの挽歌シリーズ 石鎚山「北沢コース」 ご来光の滝から墓場尾根へ
平成18年10月14日
痛快 石鎚北沢コース 御来光の滝から墓場尾根へ マーシー・ガクちゃんと
(注)一人で行っちゃあダメよ ルートはあるけど道は無い


(国土地理院 50000数値図使用(承認番号 平15総使、第634)
カシミールソフトを使ったGPS トラック・ログ 行程図
石鎚スカイライン長尾展望所ーご来光の滝            約1時間45分
ご来光の滝ー北沢ー墓場尾根ー南尖峰ー天狗岳ー弥山    約5時間
弥山ー土小屋                              約1時間半

以前御来光の滝から面河道の愛大小屋まで藪歩きをした時、弥山でお会いした姫路の沢師「八瀬さん」に会った。
その時「自分達は面河からご来光の滝を通り石鎚南稜に這い上がって来ました」と聞いた。え〜?そんなルートも
あるんだ。

同じ人間なんだから私も今度はご来光の滝から石鎚のどてっぱらに這い上がってやる〜と決めていた。マーシーに
相談すると二つ返事。こんな無鉄砲な提案に即乗ってくるのはやっぱりマーシーしかおらんわ


     石鎚山北沢コース イメージルート図  正確ではありません
     (写真は石鎚スカイライン滝見台から)

計画の直前になり何と「萩生の森」 okaちゃん達が墓場尾根からご来光の滝に下った事がわかり、一つの貴重な本を
紹介してもらう。この本にあるごくシンプルな略図が今回の山歩き成功の鍵になった。okaちゃん! ありがとうよ〜

当日REIKOさんが奈良からやって来る「さとやん夫婦」と石鎚山頂に午後3時頃に着くので弥山で待ち合わせる事にした。
それまでにたどり着けるだろうか?

朝5時に四国中央市でマーシーを拾い西条、旧寒風山トンネルを経由して面河スカイラインのゲートが開くまでに土小屋に入る。
瓶ヶ森林道の紅葉も進んでおりその美しい風景に不似合いな中年男が度々車を停めて眺める。

自転車の二人乗りでご来光の滝展望所(長尾展望台と言うらしい)へ下がる予定だったが、マーシーが二人乗りだと信じて
ランボルギーニから借りてきた折りたたみ自転車に後部座席はなかった。上海雑技団の曲乗りにも自信が無いので、土小屋
に自転車を置き車で展望所へ下りる。

 
動機を頂いた沢ヤの八瀬さん達(姫路)     あそこがご来光の滝よ

御来光の滝展望所で出走前のゲートインの駄馬コンビは逸(はや)る気持ちを抑えながら準備をして、少し土小屋方面に
歩いたカーブミラーのあるガードレールを乗り越えて沢まで下る。堰堤まで下り付き広い川原を進むとやけに青いペンキが
目に付いた。以前掲示板で赤ペンキをベタベタ塗るのに批判的な意見が大勢を占めたが、今度は青ペンキだ。御来光の
滝までこの不愉快な青ペンキと常に付き合わされる事になった。

 
    堰堤に下りて沢に入る            いつ来ても美しい七釜風景

面河渓谷の上流であるこの沢のスケールと美しさは青ペンキで歩行者を少し不愉快にさせたが、その気分を遥かに上回る
素晴らしさを披露してくれた。水はあくまでも青く澄み魚影を映す、沢を覆う木々の葉が散りゆく前の意地を見せて今まさに
輝こうとしている。鳥の声が山々の空気を揺るがし、蒼い空が宇宙に抜けている。

 
       洞門                   南沢入り口

沢の石を伝って洞門付近にくると、右手に南沢への入口である滝を確認出来た。
滝展望所からご来光の滝には2時間かからずに着きここで初めての休憩を取る。御来光の滝は紅葉にはまだ早いが、
その兆候は上部にある所々の赤みがそれが近い事を示していた。みると朝日を浴びて最下部の飛沫が輝き虹が出来
ている。左岸の岩に登って行くほど虹がそれにつれて上がってくる。背景が茶色い岩なのでもうひとつ見栄えが悪いが
幻想的な風景だった。


           ご来光の滝が現れる


               ご来光の滝

     
            滝下には虹が架かっていた

 
お〜 マーシーのシェ〜もサマになってきた 今日も背筋を伸ばして頑張るぞ〜

ここから滝上までのルートはマーシーにとっては初めてだが、滝の左側から這い上がるという最小限の情報だけで
コースを誤る事もなく歩いている。う〜〜ん コイツはやっぱりイノシシじゃ。いつかは山で「ブヒブヒ実は私はイノシシ
でした〜」言って正体を現すのに違いない。

ロープが吊るされた涸れ沢を登りつめると道は定かではない。前回は面河道へ行くので出来るだけ左側の斜面を進
んだが、今回は逆に面河渓谷の上流(本谷)へ下りるのでなるべく右側へ寄って進む。すると意外とあっけなくテープ
のある分岐点に着いた。

 
ご来光の滝上部への涸沢 ロープが・・   ヒメシャラの木  笹も出現

 
愛大小屋への分岐点らしい         この付近から石鎚が見える

ここからご来光の滝上流の本谷へ下りる。時間的には5分くらいだろうか。本谷に降り立って余りにも景色や紅葉が
綺麗なので二人ともルートの事は忘れて何かにとりつかれた様に上流にグングン歩いていく。ふと「右側に沢の分岐
がないぞ?」と私が言うと「あれ?」とマーシーがGPSの位置と地図を照合。あちゃ〜 「おいわさんコース」へ行ってし
まう所だった。

元の沢下り口まで急いで引き返して、今度は逆に少し下流に下がるとすぐ左手に支沢を発見。「これじゃ〜」と結構岩
と傾斜の多い支沢に向かってまっしぐら。最初の西沢への分岐は簡単に判明。そこから暫く進むと遡行困難な大きな
滝に遭遇。どちらに巻こうか思案の挙句運良く左側へ迂回した。暫く適当な取り付き部がなく笹薮を左に振ると「あれ?」
別の沢が現れた。あまり迫力の無い沢なので無視して最初に巻いた滝の上流へ出る。

 
 ご来光の滝上部 本谷に下りる       北沢、中沢、西沢への入り口

 
西沢分岐  ここは確認出来た       中沢を歩く (北沢分岐はどこじゃ)

 
   大き目の滝で行き詰る         左へ迂回して滝の上部に上がる

そこで磁石を出し沢が向かう方角を見るとどうもこの沢は北東へ振っている様だ。二人の合議でこの谷は「中沢
であるとの結論に至る。それにしても二人揃って北沢への分岐点に気づかなかったのは何故?大藪を又左の沢
へ取って返して遡行する。傾斜はきついが水は殆ど無くルートを選べば迂回の必要もない涸沢だ。「北沢」に入っ
た安心感から見晴らしの良いテラス上の場所でちょっと休憩を取る事にした。

 
     北沢に入る              スラブ状(一枚岩)の滑滝

周りの岩にへばりつく様に根付いている木々が少し色づいており、石鎚の秋は次第に山頂から下っている。糖尿病の
判決が下ってから口には出来なかった「黒んぼう」という甘いお菓子をマーシーと分けて食べる。すると下から動物の
気配がして何かが動いている。お菓子を口に入れかけた体勢でず〜と動物の影を追う。あれ? うっそ〜「人間じゃ」
とマーシーに告げる。

   
   あれ? 人間じゃん  ガクガク登場〜! F2付近で追いついてきた

近づいてくる黄色いザックを背負った大柄なホモサピエンスに「お〜〜い」と声をかける。すると「ガクガクです〜」と返事
がかえる。 え〜〜 二人でびっくり。掲示板でひよっとしたらお供をさせて下さいと書き込みがあったが、土小屋でも
出発点の滝見台でも見えなかったので来ないと思っていた。 それがイノシシの後をクマが大汗をかきながら追って
来たのだ。

    
         よくぞおいで下さいました〜  握手

ガクガクさんはお供の印しとして二人の前にバナナを差し出し、快く迎え入れられた。三人でバナナを頬ばり、ここに
初対面の挨拶と儀式はつつがなく取り行われ仲間が一人増えた。
ガクガクさんは高校時代に山岳部にいたらしく、山男の条件「好人物」というキャラクターを充分に満たしていた。

マーシーとガクガクさんという二人の心強い斥候部隊の存在にこれから目指す墓場尾根への行程に何の心配も無かった。
(俺って水戸黄門なの? 人〜生♪ 楽ありゃ 楽あるさ〜 ♪)

 
   北沢 F2付近             階段状の 北沢 F3付近を3人で登る

 
    北沢 マーシー F4付近            北沢 ガクガク

ここから左手には岩壁が現れ、次第に細く急になっていく沢をひたすら北に向かって進む。滝があると言っても概して
岩場の縁に迂回すれば歩行可能な程度だ。モミジ系の樹木が天辺をオレンジや黄色に染めかけている。

北沢を詰めると左側に立派な涸滝「F6 」と 右側に少し細めの滝「F5」が現れた。北沢のキーポイントとも言える二つ
の滝の周りは朱に染まっており、断崖絶壁の厳しささえも感じさせない美しい空間を作り出している。

    
           沢歩きの終焉を告げる F6滝

       
       F6のすぐ右側手前にある F5滝 ここから稜線に取り付く

F5でもF6でもどちらを登っても良いらしい、F5の方が容易との本の記述に従い右の滝を選択。直接登る事も可能な
気がしたが、ハーケンの打たれたF5の岩壁には「少し下がる」と案内表示がある。それに従い数メートル沢を下って
笹の生い茂った斜面に入る。

どうも此処から滝のすぐ横に取り付かなければならなかった様で、迂回すればするほど岩壁が前面に長く走り、更に
東の方角へと岩の下に沿って進む。やがて猛烈な笹に覆われた細い谷が現れそこにはテープが見られた。

この急登を喘ぐとV字滝の崖で行き詰った。 マーシーが更に東に偵察するとどうも墓場尾根より東側に出る様だと言う。

 
    猛烈な笹の谷             小さな沢になっておりテープが見られた


   F5から右へ迂回して小さな沢を詰めるとV字谷で行き詰った 

 
マーシーは右から攻めて私は岩壁の際     喘ぎながらも紅葉に見とれる
ガクガクさんは笹崖を攻める 
  
結局、この迂回路は中沢に向かうルートだと判断して、ほぼ垂直に近い笹に覆われた崖を潅木を掴みながら這い上がる。
(三人ともそれぞれ違うルートで支尾根まで這い上がった。)

するとその支尾根がF5、F6の上部で合流したルートの-様だった。ここからは石鎚南斜面原生林の中をひたすら喘ぎながら
北北東に向かってぐんぐん高度を上げていく。

   
           笹の垂直斜面から見る景色


 おおっ〜  あれにおわすは石鎚の副将軍「墓場尾根」様じゃあ〜りませんか

 
紅葉の真っ只中を歩くマーシー       ガクガクさんも急坂を登っていく

見上げると柱状節理がとんでもない長さに飛び出した岩壁群とその右手には墓場尾根が紅葉した木々とシコクシラベの
緑の上に陽の光を浴びて輝いている。

左手に美しく紅葉した潅木だけの存在を許した断崖が現れ、それに沿って深い笹のルートが続く。地図で確認するとこの
ルートは第一幕岩と第二幕岩との間にあるキレ落ちたスゴイ傾斜を登っていくのだが、その様な厳しい場所を歩いている
実感は無い。何千年(?)に渡る岩石の風化と草木がこの秘境の地へのB級登山家の侵入を許している。

 
 第2幕岩直下に沿ってひたすら登る   視界が開けて爽快な風景となる

萩生の森okaちゃんのHPにあった幕岩に沿ったルートを這い上がると、畳状の広い岩が現れ慎重に向こう岸に渡る。
ここからは視界が開けて墓場尾根(鋸尾根)が終始見えて遥か遠い目標を捕らえる事が出来る。その風景が桁外れに
美しいので登りの苦しさがそれを上回る感激で中和され爽快な気分になる。これを「北沢コース・ハイ」と名付けよう
     

      
      墓場尾根を目指して岩と笹の間にルートを選んで這い上がる


  こんな角度から墓場尾根を見ようとは・・・ 信じられな〜い 

畏敬の念をさえ抱かされる巨大な岩壁、その間に侵入路を確保してくれるシコクシラベと笹とドウダンツツジ。
立ち止まっては上を見上げ、さらに下界に目をやる。まさに珊瑚のような朱に彩られた石鎚の別天地を今歩いているのだ。


おいわさん流 これでもか〜墓場尾根写真のオンパレードになっちゃった


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ここで恒例の替え歌コーナー
題 「三匹のイノシシ」  原曲は長淵剛の「とんぼ」

ウォ〜 ウォ ウォ ウォ〜 ウォ ウォ ♪ ウォ ウォ ウォ ウォ ウォ〜〜 ♪

石鎚の南に聳える ♪ 岩の壁を眺めながら
   俺は 俺のやり方で登ると そう誓った  ♪

ご来光の滝を越えて 幾つかの藪を漕ぎ ♪
   立ちふさがる崖を避けて B級登山者は行く ♪

今までずっと憧れた 墓場の尾根を目指しながら ♪
   道の無いルートを追って 北へ北へと向かった ♪

岩と笹の斜面に這いつくばると
   日頃の運動不足というものが  ♪
       今頃になって やけに骨身にしみる

あ〜あ〜 中年のイノシシが 三匹
   お前達はどこを歩いてる
あ〜あ〜 しあわせの イノシシたちが ほら
   鼻を広げ〜〜て あえいでら〜  ♪

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ここまで来るとマーシーもガクガクさんも私も もうそれぞれの世界に入って思い思いの場所を散会しながら歩く。
ここを歩くのは私の願いであったが、また二人にとってもそれぞれの想いでもあった。お互いがその共通の満足感に
浸りながら最後の苦しい歩みを別々に体感する。


這い上がって来た急斜面の前で  マーシーとガクガクさん

   

 
              左上部に続く幕岩風景

    
          石鎚南壁のオベリスクだ〜


      墓場尾根が次第に近づき、鮮やかな紅葉が増す
 
写真を撮っていると二人が見えなくなった。その方面の斜面を詰めると大砲尾根と墓場尾根の中間点に這い上がった。
先行する二人から感激の鬨(とき)の声が上がる。すぐ上の大砲岩には写真を撮られているグループが居たので、
大砲岩から南先鋒への道を確認する。要領を得なかったが、まあこの近くまでは何度も来ているので大丈夫だろう。

 
   最後の尾根に上がる            大福と焼酎にご満悦

    
           墓場尾根にたどり着く  ヤッタ〜〜

昼食が未だだったので眺めの良い大きな岩のテラスで休憩を取る。ガクガクさんが高御位山さんの書き込みをみて
「焼酎」と「大福」を持ってきてくれた。大柄な体格に似合わない細かい配慮に感謝。

     
       墓場尾根に上がる (ガクガクさん 撮影)


         墓場尾根から南尖峰を見上げる

大砲岩から墓場尾根へは比較的容易なルートがあり、岩場の左側から這い上がる。こちらが岩の上でポーズをとったり
して楽しそうに見えるのかそれまで渋っていた高所恐怖症のマーシーもやってきた。南側を見下ろすと這い上がってきた
棚が岩と紅葉のコントラストも美しく面河本谷へと落ち込んでおり、その向こうに面河山の斜面が錦に霞んでいる。

東側に目をやると、土小屋と岩黒山をバックに南尖峰から派生した南嶺の稜線がラクダの背中の様な曲線を描きながら
面河源流へ落ちている。振り返ると南尖峰が東稜から見る姿よりも更に無茶苦茶な形で聳えている。

   
     墓場尾根から這い上がって来たルートを眺める

  
    墓場尾根から 南嶺の姿と紅葉  奥に土小屋と岩黒山が霞む

   
      大砲岩の下側  よく岩がずり落ちないものだ

休憩テラスに一旦帰り、もう一度同志3人で今日の充実した歩きの喜びを分かちあう。今度は藪歩きだけでなく天空の
歩きにも紫雲さんを誘おうと誓い合う。

大砲岩へ上がる途中で岩の洞穴があり、中にはマットなどが置かれているからここは写真家の巣窟か? 大砲岩から
一旦岩場を下がり、東稜からの土壇場へ渡る。

   
         大砲岩から墓場尾根を振り返る

ここからは御馴染の「登山道」なのでREIKOさんと待ち合わせた午後3時に合わせて天狗尾根を弥山に急ぐ。
弥山に上がり、山頂小屋の食堂やあたりを探すが三人の姿は未だ見えなかった。腑抜けの様に砂利に座り込んで、
少なくなった弥山の登山者を眺めながら奈良からの訪問者を待つ。

   
      天狗岳    南尖峰方面から

 
   南尖峰  ガスが出てきた          弥山へ急ぐ

ガクガクさんから面河スカイラインのゲートは18時に閉まると聞いてちょっとあせる。30分経ってそれでも現れない
ので一般道と鎖場に分かれて下山する事に。後で聞くとREIKOさん達は10分遅れで鎖場から弥山に到着したらしい。
どうもミステリーが起こったようだ。17時頃には土小屋におり、ガクガクさんの車で出発点の展望所へ下り、車を回収。

    
               今年は何度目だろう 天狗岳

 
弥山でREIKOさん さとやんを待つ   土小屋へ17時に下りる 
(結局 会えなかった)           (役立たずの折りたたみ自転車)

ご来光の滝から石鎚の山頂を目指すという身の程知らずの計画は、様々な人の協力や仲間の参加によって幸運にも
遂行する事が出来た。四国に生まれて、愛媛に育ってこの故郷の誇り「石鎚山」の美しさと奥深さを別な角度から垣間
見るチャンスを与えられた事に感謝したい。 マーシー・ガクガクさん ありがとう


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