平成24年3月10日 石鎚登拝古道を歩く
第2部 虎杖(いたづり)〜モエ坂〜横峰寺〜極楽寺を歩く
虎杖(いたづり)〜モエ坂〜横峰寺〜極楽寺 ルート図
この地図の作成に当たっては、国土地理院長の承認を得て、同院発行の数値地図25000(地図画像)を使用したものである
虎杖〜星ヶ森〜横峰寺 : 約 2時間10分
横峰寺〜極楽寺 : 約 3時間30分
石鎚王子社1番から6番まで歩き河口に着いたのは3月10日12時15分。天気は微妙だったが、大降りにはなり
そうになかったので計画通り虎杖〜横峰寺〜極楽寺の周回を行う事にした。
三碧橋を渡ると例の犬が小屋から出てきて尻尾を振りながら吠えている。小屋から出てきたので喉を撫でてやると
大人しくなった。横峰寺別院訪れた後、見慣れた加茂川の風景を楽しみながら12時30分虎杖(いたづり)に着く。
「周桑農協小松支所石鎚出張所」跡のすぐ横に六地蔵が祀られておりモエ坂を経由して「横峰寺への遍路道」があるが
いつからか台風被害の為通行止めの看板が立てられている。この右手には加茂川の支流にあたる沢が天ヶ峠まで伸び
ているが沢口部にある農協跡の裏手が改修工事中である。
この由緒ある古道が通行止めになったのは2011年9月の台風12号によるものと思われるが、現在どういう状態
なのかこの目で確かめてみたかった。もちろん危険があればすぐ撤退出来る場所でもある。
虎杖(いたづり)の横峰寺参道入り口 左に六地蔵、右に農協跡 通行止の看板が立つ
12時32分コンクリートで固められた参道を上がっていく。少し雨が降りこの所愛用し過ぎたモンベルのローカット
シューズのグリップ力が弱まってよく滑る。一旦左に振って折り返した参道は12時43分沢部を横切る事になる。
沢の手前が押し出された瓦礫でガレ場になっており沢部に着くと辺りは倒木で溢れて凄まじい光景だった。ここには
コンクリートの堰があり、参道はここを左岸に渡ると予想されたが、倒木が折り重なってルートは全く不明である。
12時45分沢を渡り倒木を乗り越えると大岩の後ろ側にコンクリートの道が沢の左岸(向って右側)に沿って伸び
ている。
入り口は平和なイメージである 沢部に近づくと沢から押し出された瓦礫で埋まっている
沢部には流木や電柱なども散乱していた 沢の対岸に渡る 大岩の裏側に参道が続く
対岸の大岩の裏側に参道が確認できた こりゃ何じゃい
しかしこの流木の量は半端ではない。こんな状態の沢を何年放ったらかしにしているんだろう。電気のコードが参道に
沿って延びており、積み上がった流木を越えて進む。流木で荒れてはいるが立派な参道が続く。
13時03分前方に赤い鉄橋が見えた。流木の直撃を受けて曲がってはいるがしっかりした橋の様だ。さて、問題はここ
を渡るかどうかだが・・・橋の入り口付近には「へんろ道」の札が掛けられているが、それが微妙な位置なのだ。
橋の入り口には流木の山で、その向こう側を調べてみる。 四国電力の鉄塔保線路が右の山に向って伸びているが、この
道幅は今までのコンクリート道幅では無い。橋に戻ると裏側に大きなお地蔵さんが置かれている。う〜〜ん ややこしい
橋の対岸を見ると大水で沢がえぐられ平たくなっている。 良く見るとその所々に石垣が残っているではないか。ここは
橋を渡る事に決めて進む事に決定。沢の上方を見渡すと唖然とさせられる。
え〜 又これなの〜 ここは右に回り込む
ひゃ〜〜 これを乗り越えるのかい 道が崩落している
元はしっかりした道じゃったのね 沢には流木が沢山ひっかかっている
この赤い橋がキーポイント これを左に渡る 右手には流木の向こうに鉄塔保線路がある
橋を渡らず右手に進むと四国電力の鉄塔巡視路指標鉄柱がある どうもこのお地蔵さんは反転したようだ
沢の際までびっしりと植えられた植林が細く育ち、大水で根っこごと押し流されている。ひょっとしてこれは人災では
なかろうか。
沢の右岸(上流に向って左側)の崩壊地を進む。次第に崩壊が激しくなり倒木や流木が重なって土手部を覆う。苦労
しながら進むと、所々にコンクリート道の残骸が残っている。これを参道の証拠と考え半ば信じながら歩みを続ける。
一旦沢に下りるがまた斜面に取り付く。
13時24分 左上に向って伸びるコンクリート道をシダの間に発見して無性に嬉しくなる。しかし修験道の道はそう
甘くは無かった。一旦上に伸びた道は右に迂回して又沢の上流部に出た。また歓迎したくない崩壊沢に出て、流木の
修羅場に現れる参道の光明に一喜一憂しながら這い上がる。
赤い橋を渡ると荒れてはいるが道の雰囲気がある 整然と組まれた石垣が見られる
少し沢を歩いて又左側斜面に取りつく すると明らかにコンクリートの参拝道を発見
でもその参拝道は上側の沢に戻って来ちゃった コンクリート道の破片を辿る
うへ〜 倒木が行く手を妨げる これを乗り越えていく コンクリートの道が又現れる
ふとルートを注意深く探していると13時33分対岸(沢の左岸)の植林の中にコンクリート道を発見し又無性に
嬉しくなる。飛ぶように沢を下りて向こう岸に渡る。付近には石組みされた橋の残骸が残っており、これが進むべき
参道である事を確信する。
コンクリート道の向うに大岩がありそこに木札が2つ置かれている。う〜〜ん間違いない。13時37分お地蔵さん
の祠もあり益々元気が出る。それにしても植えも植えたり凄まじい植林樹の数である。
ここまでくればもう安心 ! ( 赤い橋から約30分で対岸に渡る場所に到着する )
対岸(左岸)にコンクリートの道を発見してほっとする
対岸に橋の土台を見つける 横峰寺参道が現れる
少し荒れ気味の参道に遍路のお札が立て掛けられていた お地蔵さんの祠があるが王子社ではない
13時43分 小沢が崩壊しており上側を迂回して前方に出る。ここで「・・え2千メートル」と記された四角い木を
発見。恐らく横峰寺まで後2kmである。右手には石垣が組まれており古(いにしえ)人の営みを感じる。
この辺りは明治時代には周桑郡千足村の郷と呼ばれていた地区で戦後石鎚村に改称された。そしてこの急な斜面を刻む
坂は「モエ坂」と呼ばれている。その昔弘法大師が横峰寺に籠って21日行の際毎日石鎚山を往復したらしい。(凡人
にはとても無理〜)そして虎杖からこの坂を上り返して星ヶ森近くまで来た所で体が熱くて燃えるようだと言う様な
意味の言葉を発せられた所から「郷のモエ坂」と名付けられたらしい。
下の沢筋を離れて一か所 こんな崩壊地がある (右上に迂回) 横峰寺え2000米とある
植林だらけの中に石垣が見られる 次第に谷を左手に見ながらジグザグ道となる
13時53分左手に谷が見えるがこの谷にもびっしり植林され崩壊による流木が乱れて倒れている。
13時55分小さな作業小屋があり空き缶が沢山籠に置かれている。すると直ぐに「横峰寺え1500m」の標識が現
れた。一度藪っぽいコーナーを折り返すと再びしっかりした参拝道が続き14時06分四国電力の鉄標に横峰寺後
1,000mの小さな標識が置かれている。その近くには「横峰寺と河口」の標識も立てられていた。
どこの山か良くわからない 左手の沢もなぎ倒された倒木の山だ
小さな作業小屋があり空き缶入れが向こう側に置かれていた 横峰寺え1500米の標識
藪のコーナーを抜けると又明瞭な道になる 上の方で人の声がする 横峰寺駐車場方面か
四国電力北松山線の標識鉄杭 初めてお目にかかる道しるべ
14時11分 前方にお堂があり、この薬師堂に近づくと縁の下から犬が吠えて出てきた。
ガレ場には雪が残っており、そこを折り返すと14時28分石鎚山・西遥拝所「星ヶ森」に着いた。ここには有名な
鉄製の鳥居が石鎚山をバックに置かれているが残念ながら遥拝すべき霊峰・石鎚山は雲の中に隠れていた。もう一度
天気の良い日にここから往古の修験者達が畏敬の念を持って眺めた石鎚山を見てみたいものだ
立派な石組の祠があり傍らには六地蔵が祀られているが予想通り王子社を表す石碑は無かった。そこから雪の残った広い
道を下りて14時40分本日の最終目的地である四国霊場60番札所「横峰寺」に到着した。
背中が燃えながら「モエ坂」を登るとぽつんとお堂があった ここは薬師堂で六地蔵の横には元千足山字郷部落跡とある
薬師度から少し進むと星ヶ森(820m)に着いた ここが石鎚山西遥拝所だ
星ヶ森の石鎚遥拝所鳥居 役行者や弘法大師ゆかりの地だ
星ヶ森の峰地蔵
星ヶ森の六地蔵 横峰寺の仁王門
真言宗御室派 四国霊場60番札所
お参りを済ませて社務所で気休めに極楽寺への道を尋ねる。
「あの〜 道をお尋ねしたいのですが〜(恐縮気味)」「はい どうぞ〜(自信満々)」「ここから極楽寺まで
行きたいのですが、どの辺りから東へ進めばいいのでしょうか(恐縮気味)」「ちょっと待って下さい 年長者
に代わりますから(自信なさ気)」隣の年配者が「極楽寺へ? 尾根道で? ・・・何処から来たのですか?」
「虎杖(いたづり)からです」 「来れました?」「はい 来れました」
「う〜〜ん 昔は道があった様だが止めといた方がいいですよ」取り敢えず尾根から東方面を聞くと駐車場の
方角を手で示してくれた。まあ聞くだけ野暮で結果は想像通りだった。
上の駐車場方面へ上がって行き、未舗装の広い道路があったのでこれを下りる。しばらく下りても北側へ進むので
もう一度元に戻り更に上側の駐車場へと進む。
地図を見るとしばらく道路を歩く感じなので途中舗装道路がありこれを西に暫く歩く。右手に谷を隔てて雪で白く
なった道が並行して伸びているようだ。舗装道路はやがて北側に振る筈なので思い切って谷を渡り向こう側の道に
出る。どうもブルで押した急造の林業用作業道で粘土質の土がぬかるんで靴もズボンもドロドロになる。更に分岐
があったので右に上がると15時43分尾根筋に乾い林道が東へと続いていた。
ラッキー。地図とGPSを確認するとこの道が実線で尾根筋を東に走っている道路だった。
でも実線(道路)は長くは続かないのでその向こうがどうなっているのやら・・・
最初は未舗装道路を暫く下るがおかしいので引き返す 引き返して駐車場方面へ上がって見る
駐車場手前に舗装道路があったのでこれを西に進む 谷を隔てた南側の林道へ移動する
林道が二俣に別れているので右の尾根方面へ進む 尾根部に合流すると乾いた道だった 車の轍もある
未舗装ながらしっかりした林道だ 車が捨てられている 植林の間を西に延びる林道
横峰寺のある山塊は東西に長く伸びており、その東端までこの林道は続いていた。途中廃車が2台棄てられており人間
の持つ無責任な不道徳さを嘆く。今朝歩いた大保木地区へ向ってここからなだらかな斜面になるのだが、地図上にある
破線の踏み跡は見つからなかった。
16時10分主林道はゆっくりと北側(左)へと振る。その辺りに東へ入るスペースがあったので迷わずこの小道に入る。
両側には若い杉林が続いている。しかし期待に反してこの小道も次第に北の方角へ転進し、おまけに物凄いカヤの藪にな
った。カヤ藪の獣道を無理に進んでいるとやがてイバラの藪となり戦意喪失。目的が定かでは無い藪歩きには意欲が湧
いて来ないのだ。
とぼとぼと元の林道へと引き返す。分岐付近で南側へ入り尾根道を探すが見つからないので「急がば回れ」と自分を言い
聞かせて16時40分このまともな林道と運命を共にする事にした。
林道が北側に振るので正面の作業道に入る この作業道も次第に北に振り、ススキの藪になってくる
藪がひどくなり、見晴しの良い場所で南側斜面を眺める う〜ん だいぶ北側にルートが外れてしまったなあ
手袋を車に忘れてきた報いを受けて両手の平は先ほどの藪歩きで切り傷や棘が刺さって血が出ている。でもこの
5〜6年の間にマーシーさんと歩いた藪で脚や手や顔に無数の打ち身や引っかき傷が出来るのが恒例になっている
のでこれきしの傷は楽勝の部類に入る。傷口を舐めながら歩くと16時46分大規模な崩壊地に出る。
崩れ落ちた林道の山際を迂回して向こう側の尾根筋へ出る。こういう崩壊地があると車が通らなくなるので林道は
荒れてくる。それでも藪よりは数段マシな林道を前に見える景色が西条の町になるとがっかりし、南側の石鎚方面へ
向くとホッとしながら早足で歩く。黒瀬ダムが見えて「あんな場所に下り着いたら車まで先が長くなるなあ・・・」
と思う。
17時20分突然林道が切れて小さな崩壊地を越えて進むと、ススキの密生した藪となりこの林道は山の上に向っ
て伸びている。仕方なく藪が薄そうな場所から下がる。小さな境界杭がありそれでも最後はイバラやタラの目に攻撃
されながら17時35分下側の林道に下り立った。
いや〜〜ん 北に進みたくないよ〜 南に方向転換したと思ったらいきなり崩壊地じゃん
ぎょへ〜 滑り落ちたら30mくらいある そこをクリアするとここにも軽トラの廃車が放置
崩壊地を振り返る この辺りは地図に載っていない林道が走っている
ありゃ 又北へ林道が振っている よしよし 次第に南へ向いて来たぞ
林道が切れたので藪の薄い場所を選んで下側へ進む 境界杭などもあった
そこからはこの林道が南側の石鎚方面へ振るので安心しながらドンドン歩く。左下に家畜舎跡の様な建物が現れて
ホッとするが、川筋までにはまだ相当の高度差がある。
道の右側にポールが立って読んでみると「林道峰線」とある。この斜面には「峰」という地名が地図に記されている。
林道峰線が今度は西条方面(北)へ振り出したので地図とGPSを確認し、18時15分極楽寺へ向って民家跡の間に
ある小道を東へ下る。竹薮に入り暗くなったのでライトを点ける。今日は最後には日暮れになる事を覚悟していたので
三種類のライトを持って来た。ヘッドランプやプッシュ式の簡易ライトは過去において偶に点灯しない場合があり、
夜歩きの可能性が強い場合は用心の為数個のライトをザックに用意している。
LEDに白く映し出された小道を慎重に降りて行くと右下に大きな神社の屋根が見えた。更に進むと森が開けて両側が
綺麗な畑の中央を石組みの小経が下に続く。第二桧王子付近で見た様な風景で、民家には明かりが灯っている。
夕暮れ時の人の気配は良いものだ。18時25分狙い通り極楽寺のすぐ北側の道路に下り着いた。
藪で苦労しながら下側の林道へ下りる 車の轍が嬉しい 舗装道路をどんどん歩く
薄暗くなったので画像がブレている 林道峰線とある 地図を確認すると真東に極楽寺があったので林道を外れる
ショートカット道を東に下る 竹藪や林の中をライトを頼りに進むと景色が開けてきた
18時25分 極楽寺近くの道にやっと下りつく 真っ暗になった極楽寺へお参りする
18時30分既に暗くなった道を車に帰り、石鎚山や大保木地区に縁の深い極楽寺の駐車場へ移動する。暗い石段を
お寺に上がり、今朝から長かった旅を締めくくる。
人間の心は不思議なもので、宗教心などほぼ無縁の身でありながら石鎚三十六王子社巡りを行い、その旅の終りに見知
らぬお寺で無事を感謝する。漠然とした自然崇拝や登拝、巡礼の心に少し触れた一日となった。