望郷シリーズ  
平成15年10月26日 嗚呼 我が恋する永遠の串ヶ峰 そは「大女の肩」なりき 
初恋の山を求めて銅山峰西赤石山物住頭上兜山へのまじめな登山 (歩行 9時間)

山も人間もその見方によって評価もイメージも全く違うものとなる。特に山の場合、香川の讃岐富士のようにどこから見ても
見分けがつく独立峰であれば問題が起こらない。でも山脈の一部を形成する山の場合、見る方向、高度によって形が全く違
ってくるから厄介だ。

新居浜で育った、それも上部地区で下向きな人生を送ってこなかった人ならあの山の事は誰も知っているだろう。えんとつ山
付近から少し東向きに威風堂々とそびえる惚れ惚れとする山。 

    
    この山  これを兜山と呼ばすして何とする! でも肩なんです。

しかしその山の名前を知っている人は少なく、私も西赤石の頂上から見える景色を双眼鏡で覗き、この山に違いないと勘違
してHPに掲載。その点を「おばあちゃんお新居浜弁」のHP作者、新居浜のゆうくんから訂正のメールを頂く。彼に私の恋した
山はどうも上兜山とそれから伸びるらしいとのヒントを頂く。

え〜!? 私は肩に恋してたの? どうせなら「うなじ」とか「太もも」とかであって欲しかった。どうしてもあの威風堂々とした私
の内なる山が単なる肩部とは信じたくなかった。よ〜し、どうせ恋をしたのが肩なら「その肩にキッスマークでもつけてやろう」
長期登山計画
がここに開始された。


最終的には新居浜、西種川上流の「魔戸の滝」東側の尾根伝いに藪漕ぎ登山が目標。その前哨戦として10月26日 西赤石、
物住頭経由、上兜山
を目指す。「わいわいさんの藪漕ぎ日記」を読んで恐れをなした私はホームセンターで性格異常者と間違
われないかと心配しながら鉈(なた)と厚鎌を購入。ついでに自宅からこっそりノコギリまで持ち出して背中に背負う、これじゃ
まるで弁慶じゃないか!

    
  今回の登山ルート 東平ー銅山峰ー西赤石ー物済頭ー上兜山 往復

この地図の作成に当たっては、国土地理院長の承認を得て、同院発行の数値地図50000(地図画像)を使用したものです。
 (承認番号 平15総使、第634号)


今回は極めて個人的な哲学の旅だから盟友ロボット牛若丸も誘わなかった。タダでさえも呆れられているこの山狂い亭主が殺人
兵器を背負って出かける所など見られたら家人は卒倒するだろう。初恋の人に会うというふしだらな動機に基づく山行きなので仕事
の振りを装い何も言わず高松の自宅をこっそり七時前に出発。

   
  清滝トンネルを抜けてすぐ標識を左折  東平(とうなる)別子銅山自然の家

新居浜で高速を下り、エントツ山を左に見ながら国領川を別子マイントピア方面へ車を進める。昔はこのあたりは友達の家が沢山
あったが今は寂しい限りだ。

清滝トンネルを抜けたところで左折して東平(とうなる)銅山の里へ八時半到着。駐車場ではあちこちで団体登山者や家族連れが
準備をしている。こちらも藪漕ぎ用必殺兵器をナップサックに押し込めるが、現場を家族連れに目撃されてしまった。通報されない
うち逃げるように第三通道の登山口に急ぐ。

   
 第三通道 登山口 この橋を渡って左折  馬の背登山道への標識

時間を稼ぐ為に「馬の背」登山道を通り、銅山峰ヒュッテのある角石原へ。この馬の背は尾根を行く割には景色が悪い。左右の谷か
ら水の音を聞きながら急な登りを急ぐと30分程で太平坑跡への広い道にでる。左に少し行くとヒュッテだが途中から右上に銅山越
への登山道があり、ここを進む。

   
  見晴らしが悪い馬の背登山道  約30分で銅山越の登山道に合流

この道にはヒカゲツツジやウラジロ、カエデ、ミズナラ、タモ、アセビなど沢山の木々に名札が付けられている自然学習の道だ。勉強
になるがメモがないので覚えきれない。頭の中で繰り返しているうちに南側の日浦登山道と峠の地蔵前で合流。今日の目標はず〜と
先なのでお地蔵さんにお祈りをして西赤石に向かう。

  
 銅山峰ヒュッテの手前で銅山越への登山道に入る   登山道

  
日浦登山道よりの峠のお地蔵合流点   西赤石手前のピークの上に頭を出す 
 右(西)に行けば銅山峰の尾根      イシダイの頭のような西赤石山

通りすがりの西赤石山

西赤石の手前には尾根道をしこたま歩いた初めての登山者をだますピークがありこの北斜面への展望所がある。ここから見下ろす山肌
の紅葉はなかなかの景色です。西赤石手前で大きいカメラを抱えて若い女性二人を連れたオジサマとすれ違い挨拶。頂上で別の女性
二人が食事中だったのでシャッターを押してもらって即、東へと進路をとる。彼女らにとって頂上で兜岩の写真1枚と自分の写真を撮って
もらい、あっと言う間に通り過ぎた怪しい中年だったに違いない。きょうはゆっくりしていられないのです。愛想無しですみません。

    
  西赤石山手前のピークから北側を覗くと綺麗な紅葉が見られた

   
    西赤石頂上             西赤石から兜岩越しに霞む新居浜の町

西赤石をすぎると見晴らしの良い尾根道がず〜と続く。尾根から紅葉が左右に谷へ落ちて行き、風がススキを揺らせる。きょうは秋の
物悲しい風情に浸ってもいられないのだ。前方には物住頭、前赤石、八巻山が綺麗に見える。ここから見える少し南側からの物住頭
は結構いい形をしている。

30分くらいで物住頭に到着。 といっても標識があるわけでもない。基本測量と書かれた白い角棒とそばに三角点と思われる四角い石
がある。ここに来ると物住頭は一つの頂(いただき)とは思えない。まさに路傍の頂だ。南側の高知方面(大座礼山など)へは最高の展
望だが、北側への見通しは極めて悪い。登れるような木もないので藪の中を南斜面へすすみ双眼鏡で新居浜方面を見る。すこし町は
見えるが、見慣れた景色ではなく大分新居浜の西側の様だ。

   
 尾根道から北側にせり出す上兜山、大女の肩    路傍の物住頭

物住頭から上兜山まで藪漕ぎ開始! (11時30分)
 
  
さあ 生まれて初めての藪漕ぎだ。入り口からもうブッシュ大統領が私を弱小悪の枢軸国のごとく圧力をかけて来る。ナップサックを開
けて中から取りあえずゲリラ兵器「厚鎌」を出す。格闘すること10分にしてこの圧倒的なブッシュの前にはゲリラ兵器は何の抵抗力にも
ならなかったと悟る。当然鉈(なた)もノコギリも同じ運命だ。

完敗!こんなブッシュの中で鎌など振るっていたら、自爆行為となり持ってきた医療用品(リバテープ、外傷消毒薬、包帯系のテープ)の
お世話になることが必至だ。

   
   立ちはだかるブッシュ           シャクナゲのジャングル

急きょガンジーの無抵抗主義作戦に切り替え、なされるがままにブッシュに融け込む。これがいい。実生活で唯一私が泳げる泳法
「平泳ぎ」スタイルで笹やブッシュ様に少しだけ進路を譲って頂く。右手に100円ショップで買った赤色のガムテープを手首にはめて
「楢山節考」よろしくテープ作戦。物好きな先人の赤いテープが所々に見られるブッシュを10分くらい下ると、シャクナゲの林にぶつかる。

クネクネしたシャクナゲの枝が邪魔をして通れそうにない。ナップサックから飛び出たストックが枝に引っかかり邪魔をする。先人の赤い
テープが切れたので、左斜面側に迂回。これが間違いで背丈以上ある笹の中に迷い込み道がわからない。

   
  これが目線の風景だ              ところどころに岩場も出現

迷ったら尾根に帰れ! 自分にいいきかせて尾根にでると道がある。しばらく進むと又道が切れる。また左斜面に迂回。笹とブッシュと
格闘。一体こんなことしていて上兜山まで行けるんだろうか?と不安になる。迷ったら尾根に帰れ! また尾根まで必死で上がると又
道がある。

藪漕ぎ大将 同志 Tさんに遭遇!

3度目に又道がわからず左に迂回して格闘している時、ガサガサ音をさして大きな木をつかんで引っ張ったところ「ボキッ」と静かな山で
大きな音を立ててしまった。いきなり「ウワー」っと人の声。あれ〜?こんなところに来る人がいるの?「すみません、私、熊でもイノシシ
でもありません。道に迷った哀れな登山者で〜す」とまず人間であることを主張して正規の登山道にいるであろう藪漕ぎ登山者の声に
向かって四つんばいで駆け上がる。
 
  
第一村人発見 !?(立っているんですよ)  同志 藪漕ぎ大将は意外とシャイで 
驚かしスミマセ〜〜ン (これで正規の登山道?)      かわいいインテリ風
  
「おどかしてすみません」とまず謝り、「どこから来たんですか?」と聞くと「魔戸の滝からやって来た」と言う。アンタ、それ私の夢なのよ!
そんなに簡単に言わないで!体は頑丈そうだが、インテリタイプでとても山男には見えない。私と明らかに違う点は手に持つ2万5千分の1
の地図と胸のポケットに収められた手帳と筆記用具だ。こちらは役に立たない専守防衛ガラクタ兵器のみ。これも人生哲学の違いか?

お互い先を急ぐがこの際「藪漕ぎ同志」から情報を収集しなければ。聞くところによると「わいわいさんの藪漕ぎ日記」は読んでおられて、
林道を使わずにひたすら尾根を伝って歩いてきたと言う。この「藪漕ぎ大将」は新居浜の中筋という結構ご近所様だ。やはり「あの山」
心奪われた同志・同胞だ。

   
  上兜山 近くて遠いもの何〜んだ?   アレが新居浜に向かってそびえる
   なぞなぞ遊びしてる場合か!      大女の肩 「串ヶ峰」なんだ 

「あの山」はどの山ですか?と聞くと上兜山から台地のように北西に伸びた肩だと言う。やっぱり!ここで私の初恋の相手は物住頭
から北に伸びる脊梁が上兜で北西に折れ、その端にある肩「 大女の肩 」だったことが最終通告された。

気を取り直して、「名前はないのでしょうか?」と聞くと「伊藤玉男さんの著書に「串ヶ峰」と書かれています」と・・・  串ヶ峰?
 おでんの先に付いている三角のコンニャクを連想して不満だった。もっといい名前無かったの?でもまあ自分が恋したには一応
不満足ではあるが名前があった。お礼を言ってこの角野中学校と新居浜西高等学校の後輩と別れる。後にHPを通じてメールが入り、
この藪漕ぎ大将は西赤石から兜岩を降りて又魔戸の滝登山口まで帰ったと言う。恐れ入りました!

この「藪漕ぎ大将」と別れてまた一度道を失いボロボロになりながら「上兜山」頂上にたどり着く。「わいわいさん」がHPで言ってたよう
に頂上には何も無かった。しゃもじはありました。今まで豊受山が一番狭い頂上だ!と公言してきたが、撤回!ここが一番狭い!急
に霧が出てきて視界が悪くなった。

        
      上兜山の麓にやっと到着 ヘロヘロです

   
上兜山頂上にある「わいわいさん」の    物住頭方面へはピークを二つくらい
 しゃもじとご対面                越えて尾根を引き返す

時間は既に午後2時、藪漕ぎで相当時間を浪費したので「大女の肩」までいくと日が暮れる。こんな恋人と一夜を過ごすわけにも
いかない。相手の素性がわかったので今度は魔戸の滝から来れば良い。 撤退〜〜
帰りはひたすら尾根道を外さず進む。帰りの方が尾根の道がわかりやすい。自分の付けたテープを頼りに一時間で丁度午後3時
に物住頭に帰り着いた。

色んな出来事に興奮して懐かしい物住頭に帰り着いたが、この路傍の物住頭は何事も無かったようにいつもどおりそこで静寂の
夕日を浴びていた。

 
  
 ガスが噴煙のように湧き上がる前赤石  東側から見る西赤石山の端正な姿

    
夕日を浴びた尾根縦走路より南側の山  ザレ場前に銅山峰ヒュッテへの近道

    

 帰り道何度も振り返る物住頭、前赤石、八巻山と頭を覗かせる東赤石

東側には相変わらず前赤石と八巻山が夕日を浴びて赤銅色に輝いている。帰りは西赤石を過ぎ、次のピークを下った所にある銅山峰
ヒュッテ近道の急な山道を下り、ヒュッテ前を通り再び薄暗くなった尾根道を帰る。

 
 
  角石原の銅山峰ヒュッテ        ヒュッテの簡易太陽熱、風力発電設備

結局初恋「大女の肩」には到達出来なかったが、ひょんな事から同胞「藪漕ぎ大将」に会う事が出来たし、藪漕ぎの大変さも経験、西陽に
包まれた赤石山脈を歩けた充実の一日だった。残された大きな課題は鉈(なた)や厚鎌を今後どうするかと言う事と、藪漕ぎで出来た擦り
傷とズボンの汚れを家に帰ってどう切り抜けるかだけだ。

    

     「藪漕ぎ大将」から提供された 西赤石直下 兜岩からの写真
     串ヶ峰ー上兜山ーやぶこぎ尾根道ー物住頭ー前赤石

こうして「大女の肩」にキッスマークをつける私の山行きの第一歩が終了した。


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